ある日、La routeにこんなメールが届きました。

「私はこの度、『自転車競技分離派 シクロクロス観戦オタク、いろんな自転車競技を観に行く』という同人誌を発行する運びとなりました。
本書は、サブタイトルの通り、シクロクロス観戦オタクがカメラを持って6種類の自転車競技を観戦した体験記となります。

La route編集部の皆様に是非とも拙著をお読みいただきたいと思い至りました。
もしよろしければ、本書を献本させていただきたく、編集部宛にお送りしてもよろしいでしょうか?」

(※メールなので一部省略・改変しています)

送ってくださったのは、アートや写真に関するお仕事をしながら、「ヘラジカ書房」という名で本を作る活動をされている永野ひかりさん。

メールの末尾にはこの同人誌の目次も併記されており、それを見るに、昨年のTOJ東京ステージや、2月のシクロクロス東京など、自分もその場にいたレースについても綴られている様子。メールの丁寧かつ適度な体温のある文体からも本の中身への期待が喚起され、さらには熱心なLa route読者でいらっしゃるともお見受けし(ここ重要)、「ぜひ読んでみたい」とご献本の申し出に甘えることにしたのです。

永野さんは、2019年12月の幕張クロスでシクロクロスを初観戦。以来、その魅力にどっぷりハマり、本人曰く「狂ったようにシクロクロス観戦に行くようになった」のだとか。

2022-23シーズンに至ってはJCXシリーズ8戦、関東のローカルレース7戦、さらに全日本選手権と日本各地のCXレースを追いかけ、何ならレースの運営にも関わるようになったそうで、もはや「観戦オタク」の域を超越。シクロクロス界隈での顔も広く、選手ではないものの「観て撮って書くシクロクロッサー」と呼んで差し支えないでしょう(独断)。

そんな永野さんから編集部に届けられた『自転車競技分離派』は、シクロクロス、ロードレース、トラック競技、マウンテンバイク、BMXレース、BMXフリースタイル・パークという6競技の観戦レポート。同人誌とはいっても100ページを超える大ボリュームで読み応え十分です。

その高尚で難しそうなタイトル(「写真分離派」という20世紀初頭の芸術活動をオマージュ)に反して、レース前後の描写のリアリティや、競技(に関わる人も含めて)に対する永野さんのリスペクトがそこかしこにちりばめられ、読み出すとページをめくる手が止まりません。またどの競技について書いていても、どうにも隠しきれないシクロクロス愛が横溢しちゃっているのも、読みどころかも。

あと、各章の書き出しがどれもいいんです。レースの描写へ入っていくまでの助走区間で読み手が引き込まれていく。これは観戦レポートというより、たまたま自転車がモチーフとなっている永野流エッセイ。たいへん面白かったです。

献本から数日後には、永野さんが出展された展示・フリマイベント「やっちゃばフェス」にて、直接ご挨拶ができました。そしてそこで理解しました。僕も取材していたシクロクロス東京で、カヤックに乗って海上にプカプカ浮かびながらレースを撮影していた女性が永野さんだったことを!

シクロクロス東京1日目の夕刻。きっとこの浜辺で永野さんと何度もすれ違っていたことでしょう。

またその後のロードレースの全日本選手権でも、チームエリアをうろついている我々に気づいて声をかけてくれた永野さん。一通のメール、一冊の本がきっかけの出会いではありますが、こうしてレース現場で顔見知りが増えるのは嬉しいし、何かと心強く感じます。

ここまで、あえて内容の詳述を控えさせていただいた『自転車競技分離派』。ぜひ皆さんにもお手に取って読んでいただきたく…ご興味のある方はこちらのオンラインショップやヘラジカ書房のインスタグラムをのぞいてみてください。

では永野さん、またレース現場でお会いしましょう!

(高山)