ジャージの行方を見届けに
「今シーズンこそは勝って全日本チャンピオンジャージを着たいですね」
「このジャージ、すごく重みはありますけど、ずっと着ていたい不思議な魅力があるんですよ」
織田 聖選手と野嵜然新選手。エリートとU17、昨年の雪辱を期す者とディフェンディングチャンピオン。カテゴリも立場も異なりますが、ともにLa routeのインタビューで全日本チャンピオンジャージへの熱い想いを語ってくれた2人です。
そんな彼らの日本一を賭けた戦いを見届けに、「全日本選手権自転車競技大会 シクロクロス」の舞台、愛知県稲沢市のワイルドネイチャープラザに行ってきました。
現地観戦に行くことになったきっかけは、フォトグラファーの田辺信彦さん。正直なところ会場が愛知だと知った段階から、「現地に観に行くのは厳しいかな」とちょっと弱気だったんですが、レースの数日前に届いた田辺さんからの「いっしょに行きませんか?」とのお誘いは渡りに船。La routeからは栗山と僕で行くことになり、3人で運転を交代しながらのクルマ移動なら、三重県との県境にある会場へもそこまで苦もなく、何ならワイワイ楽しく行けそうです。
というわけで土曜日の夕方に東京を出発。車内では、田辺さんが今年も撮影に行かれるというシクロクロス世界選手権の話題や、高山でもわかるシクロクロス講座、全日本選手権の優勝予想、さらに名古屋飯や名古屋発祥のチェーン店のあるあるトークなどで盛り上がり、あっという間に会場近くの前泊宿に到着できたのでした。
明けて1月15日。前日と打って変わって好天に恵まれ(午後は少し雨がぱらつきましたが)、絶好のレース観戦日和です。
最初のレースは8時30分スタートの男子U17。早速、然新選手がチャンピオンジャージを死守すべく戦います。
スタートから積極的な走りを見せた然新選手は1周目を先頭でクリア。しかし2周目以降は昨年U15でデッドヒートを演じた松井颯良選手にリードを広げられる苦しい展開となり、最終的に3位でゴール。松井颯良選手にとっては、1年前に数センチ差で然新選手に敗れた悔しさを晴らす、文句なしの優勝となりました。
表彰式ではすっきりとした表情で笑顔も見せていた然新選手ですが、本人に「本当は悔しい?」と聞くと「めっちゃ悔しいです!」と即答。その言葉に不惑のおじさんは安心したぞ。
ちなみにどれだけ悔しかったのかは、然新選手のブログ「ゼンシンあるのみ」で詳細に綴られてますのでぜひ。
さてその後も、僕は各カテゴリのレースを、コースのあらゆるエリアで観戦。大局的に見れば各年代の日本一が決まる大会なわけですが、ミクロな視点で見ると、バニーホップの跳躍が美しい選手、砂のあしらいがうまい選手、バイクの担ぎっぷりがかっこいい選手などなど、選手ひとりひとりに個性がある。それを見つけるのが楽しくて、レースごとに自分なりの“推し”を見つけながら観戦していました。
そんなこんなで、つい昼食をとるのも忘れて観戦しているうちに、男子エリートのスタートが近づいてきました。
シーズンでは連戦連勝、世界選手権の出場権も獲得、海外での豊富な経験もある。取り巻く状況だけ見れば「勝って当然」ともいえた織田選手。本人にかかるプレッシャーはどれほどのものか、勝手に想像して勝手に緊張していた僕だったんですが(何様やねん)、結果はみなさんご存じの通り、織田選手の完勝で幕を閉じました。
こうして無事に、La routeに登場してくれた2人の戦いを見届けることができた帰り道。
ぼんやり思い出していたのは、14カ月前の自分でした。
2021年11月。La routeに携わるようになったばかりのタイミングで、「シクロクロスってナンデスカ?」という状態のまま、取材はおろか、半ば安井の愛息、栗山の愛娘の子守担当として野辺山へと連れられた僕。横目でレースを覗いてはいましたが、泥んこになって疾走する選手たちに対して、ただただ呆気にとられた記憶しかありません。
それが今となっては、プレス用のビブスを着て全日本選手権の現場に立ち、そこでは自分が直接取材した選手たちが戦っている。どう考えても不思議な感覚です。人生というのは本当に、どう転んでいくのかさっぱり分かりません。
流れる車窓を見ながら思いましたよ。
ここまで来たら、いずれ世界選手権も観に行くしかないか!?
(高山)
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