2歳で出場した初レース

春休みのうちに取材できればと、3月末の晴れた日に今回の取材対象者である野嵜然新ぜんしん君のお宅へ向かう。家の前ではすでに、お父さんの野嵜英樹さんが取材チームの到着を待っていた。家の前で英樹さんに挨拶していると、チームジャージに身を包んだ然新君が現れた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。今日はせっかくなんで全日本チャンピオンのジャージで撮影したいと思っていたんですが」

「あ、そうなんですね。すぐ着替えてきます!」

思っていた通りの好青年。学校の制服を着ていたら、自転車でレースをしていることも全日本チャンピオンだということも到底イメージできないだろう。
初対面の大人が複数人いても自然体で、むしろ緊張しているのは初めて中学生に取材するこっちのほうだった。然新君が通う中学校と筆者の母校が近いという偶然に乗じて、インタビュー前に他愛もないローカルトークに付き合ってもらい緊張をほぐしてもらったほどだ。

2007年、東京生まれ。自転車に乗りはじめる前から『茄子 アンダルシアの夏』のぺぺの大ファン。2歳でレース活動をスタートさせ、以降マウンテンバイク、シクロクロス、ロードと年間通してあらゆるレースに参戦。2020年シクロクロス全日本選手権3位(U15)、2021年シクロクロス全日本選手権優勝(U17)。名前は「前進」という音の響きが由来。山や自然が大好きなご両親によって、“何か新しいことをしてほしい”という想いから“然新”という字があてられた。

近所の練習コースでの撮影を済ませてきた然新君に、まずは自転車との出会いから振り返ってもらった。

「もともとレースを見るのが好きだったんです。あるときマウンテンバイクのエリートクラスのレースを見ていたら、ものすごく興奮していたみたいで。その様子を見た父が僕に自転車を買い与えてくれて、気づいたら毎日乗っていたという感じ。それが2歳のときです」

2歳…。少し説明を加えておくとお父さんの英樹さんは、2000年頃から山岳ダウンヒルを中心にクロスカントリーやヒルクライムで活躍してきた現役レーサーで、「BIKE FITTING TORQUE」も経営している。そのため然新君も生まれてすぐの頃から、週末はレース会場で過ごすのが当たり前だった。ちなみに然新君曰く「最終レースを見終わるまで絶対に帰りたがらなかった」そうで、幼心に自転車の迫力と疾走感の虜になってしまっていたようだ。

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