何年か前、デローザがブランドロゴを変更し、レトロフューチャーを合言葉に新時代へと突き進もうとしていたときのこと。創業者であるウーゴ・デローザさんと、三男であり現代表のクリスティアーノ・デローザさんに、リモートでお話を聞いたことがあるんです。お孫さんたちも登場してくれて、ファミリー企業らしくほのぼのとした雰囲気で1時間ほどのインタビューは終了。最後にウーゴさんと簡単な質疑応答をする時間を貰えました。以下のようなやり取りでした。

フレーム作りで最も大切なことは?
「ス・ミズーラ(オーダーメイドを意味するイタリア語)。お客さん一人ひとりに合わせてフレームを作ることですね」

昔のスチールの時代の自転車作りと、現在のカーボン時代の自転車作りの違いとは?
「時代の流れに従って、自転車も進化させてきたまでのことです。時代が変わったとともに、デローザも自然に変わったということです」

では、デローザのバイクはこれからどのように変わっていくんでしょうか?
「お客さんの希望次第です。マーケットの希望に耳を傾け、デローザのバイク作りもそれに応えて変更するかどうかを決めます。デローザにとっては、お客さんが一番大事。デローザの未来を決めるのは、我々ではなくお客さんなんですよ」

世界で最も高名なビルダーといってもいい方なのに、俺が俺が、というところが全くありませんでした。孫たちを見て目を細めながら物静かに語るその姿は好々爺そのもの。画面を通してではありましたが、真摯で、控えめで、商売っ気がなく、温かい人柄が伝わってきた、貴重な経験でした。

そんなデローザを取り扱う日直商会の展示会へ。

50周年にはチンクワンタ、60周年のときはセサンタと、ディケイド毎に記念モデルを発表していたデローザですが、70周年となる今年もセッタンタというバイクを発表してます。新型スーパーレコードEPSにボーラもしくはハイペロンで約300万円という超高級車ですが、図らずもこれはウーゴさんが監修した最後のモデルになったそう。

デローザ・セッタンタ。スーパーレコードEPS/ハイペロンウルトラ完成車が297万円、スーパーレコードEPS/ボーラウルトラWTO完成車が291万5,000円、デュラエースDi2/ハイペロンウルトラ完成車が264万円、デュラエースDi2/ボーラウルトラWTO完成車が258万5,000円。写真のカラーを含め7色が用意されます。

このバイクの開発が終わったのが昨年の秋。ウーゴさんが鬼籍に入られたのが今年の春。ウーゴさんが実際に図面を引いたわけではないでしょうし、どれだけ関わっていたのかは分かりませんが、開発の節目節目でウーゴさんに意見を貰っていたのは確かだそうです。

 

スチールの時代に名声を築いたデローザですが、現在ビジネスの中心はもちろんカーボンフレーム。しかし今もスチールとチタンの金属フレームをラインナップしています。さすがにカーボンフレームは自社製ではありませんが、金属フレームはいまだにデローザの工房内で作られており、カスタムオーダーのブラックレーベルも健在。今回の展示会でも、ブラックレーベルのフレームたちが誇らしげに飾られていました。

そもそもデローザの金属フレームには多くのサイズが設定されており、ほとんどの人は既存のサイズのどれかに当てはまることが多いようですが、それでもカスタムオーダーをやめない。ウーゴさんの言う“フレーム作りに最も大切なこと”が全くぶれていないんです。

他社のように既製品のカーボンバイクに完全に切り替えてしまうのも手だと思いますが、こういうフレームたちを見ると、ウーゴさんの意志はしっかりと受け継がれてるんだなと感じます。
「そこは彼らの軸であり、ウーゴさんが大切に育ててきたところなので、これをなくすとデローザがデローザではなくなってしまう。世代が変わったとしてもそこは変わらないでしょう」とは日直商会の水口真二さんの弁。

過去の方法論や栄光にしがみついていてはビジネスとして行き詰まる。伝統を捨て去ってしまうと旧来のファンが離れる。歴史あるブランドにとっては難しい判断でしょうが、デローザは伝統と革新を絶妙にブレンドさせて生き抜こうとしているように思えます。

そういえば、過去に2度だけデローザを所有していたことがあります。
1本目はヌーボ・クラシコというスチールフレーム。数年前に登場した復刻版のほうではなく、2000年以前にラインナップされていたオリジナルのほう。チューブ内壁にスパイラル状のリブが入っていたコロンバスのSLXで組まれていて、シートチューブの後ろに薔薇のイラストが入っていたあれ。おそらくウーゴさんがまだばりばりにフレームを作ってた頃のモデル。今となっては、なぜ、どうやって手に入れたのか全く覚えていません。当時若造だった僕には価値もよく分からないまま手放してしまいました。
2本目はUD。ウーゴ・デローザのイニシャルをモデル名とした超軽量アルミフレームです。ほぼ新品で手に入れたこちらも、もったいなくてほとんど乗らないまま誰かに譲ってしまいました。奇しくも2本とも深く濃く美しいブルーでした。
あのヌーボ・クラシコとUD、今もどこかで元気に走ってるといいなぁ。

(安井)