散歩がてらマイヨ・ジョーヌを
安井くん、久しぶり。ツール・ド・フランス、お父さんと観に行ってきましたよ。人が多かったけど、すごい迫力でびっくりしました。自転車レースって、すごいのね――。
2013年、大学時代の友人のお母さんから届いたメールです。
もちろんフランスのツール・ド・フランスではなく、さいたまのツール・ド・フランス。大宮にお住まいのその人は、近所だからと「さいたまクリテリウムbyツール・ド・フランス」(第一回はこんな名称でした)を夫婦で観戦に行き、そのスピードと迫力に感動して、自転車の仕事をしていた僕に報告のメールを送ってきてくれたのです。
僕も例年は観客として訪れていたさいたまクリテですが、今年はプレス申請をして、パスを首から下げて行きました。でも、僕はレース展開そのものにはさほど興味がなく、ときどき撮影エリアに入りながらも、ほとんどの時間を観客の皆さんと一緒に、さいたまクリテの雰囲気を楽しむことにしました。
前夜祭や前座レース、メインレースのことなどは他メディアで既報でしょうから、La routeではあえて観客目線で「第8回ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」の様子をレポートします。
小さなお子さんと一緒に観戦するパパとママ。おばあちゃんと一緒に見に来た家族。近所の高校生であろう、制服姿の男女のグループも見かけました。もちろんロードレースファンも多くいましたが、「なんか駅のほうで道路封鎖してすごい自転車レースやるみたいだから散歩がてら来てみた」的な方々もたくさん。
ジャパンカップもTOJも観客として魅力的なレースですが、さいたまクリテは一味違います。ロードレースファンにとっては、マイヨ・ジョーヌをはじめ世界のトップ選手の走りを肌で感じて、触れ合えたりもする超貴重な機会。
近所に住んでいる人たちは、散歩がてらマイヨ・ジョーヌが見られて、いきなり世界レベルの走りとレースの雰囲気に触れられる。僕の友人のご両親のように、そこで衝撃を受けて感動する人もたくさんいるでしょう。
濃いファンからレース初見の人まで、ここまで幅広い層に楽しまれるイベントは、他にないかもしれません。さいたまクリテのレースは興行だとかシナリオが決まってるとか、いろいろ言われてますが、そんなことはどうだっていいんですよ。日本にスーパースターたちがやってくる。日本の道を走ってくれる。目の前をマイヨ・ジョーヌが駆け抜けていくのをこの目に焼き付ける。そんな経験、さいたまクリテがなかったら一生できないことですから。
あの友人のお母さんだって、さいたまクリテが行われていなかったらロードレースなんか見なかっただろうし、ヨーロッパプロの走りに触れるなんてなかったはずです。自転車とは無縁だった夫婦に新たな経験をさせ、一瞬でも感動させたことだけでも、さいたまクリテの一つの大きな価値だと思います。
大いに盛り上がったレースが終わり、プレスルームに歩いて戻ろうとしていたとき、クールダウンラップ中のカヴェンディッシュが、沿道のファン達とハイタッチをしながら、ゆっくりと走り去っていきました。運よくカヴとタッチできた人、一生の思い出になったでしょう。
これは、慌ててカメラを構えて、柵の隙間から撮った写真です。夕日の中、さいたま新都心駅の裏通りで、もう二度と起こらないであろう一瞬の触れ合い。それはそれは美しい光景でした。
(安井)
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