メーカーの良心
新型プロペルが発表されましたね。数年前は万能系ロードが一気に変わりましたが、今年はエアロロードが大きく動く年。マドン、S5、フォイル、そしてこのプロペル。そろそろTMR01やシステムシックスも変わるでしょう。デローザ、コルナゴあたりの動向も気になります。
しかし実は、ジャイアントに関しては経験的知見がさほどありません。ジャイアントの上位機種は今でもISP(インテグレーテッドシートポスト)を採用しているため、サイズが合う(ポジションが出せる)試乗車が少なく、しっかりとした試乗ができないことが多いんです。
しかし、形状やスペックから見えてくることもあります。
新型プロペル、あくまで僕の知識での印象ですが、奇をてらわず、至極真っ当な変化をしたなと感じます。CFDで当たりをつけ、可動マネキンを使ってボトル込みで実際の走行環境に近い状態で風洞実験をし、フレーム各部のボリュームを絞りつつカムテール化して、空力的に洗練させる。実物を見ていないのでなんとも言えませんが、トップチューブ後半はUCIルールの緩和によって薄さが2.5cm以下になっていそうですね。
興味深いのがリヤセクション。シートチューブが翼断面で後輪に沿っていた前作は、「いかにもエアロ」なリヤ三角でした。しかし新型のフレーム後半はエアロロードとは思えないほど細身になりました。後ろ半分だけ見たらTCRのよう。
「自転車の空力は、空気が最初にぶつかる場所、即ちハンドル、ヘッドチューブ、前輪でほぼ決まる。それら前方構造物で気流が大いに乱されるため、後半をどんなにエアロな形状にしても意味がなくなってしまう。ただし、前輪の空気抵抗が低ければ、ダウンチューブのエアロ化は効いてくる。そのときに問題になるのがボトル。円柱のボトルがあるとフレームの空力が台無しになる」
新型プロペルのリヤセクションは、いつか空力の専門家に聞いた、そんなコメントを綺麗になぞる設計です。
空力的にこだわったフレーム前半に対して、空力にあまり関係のないフレーム後半は細身にして、軽さ・乗り心地・適度なしなやかさを織り込んだのでしょう。そんな設計を見る限り、乗りやすいエアロロードに仕上がっているのではないかと想像します。
さらに、専用のボトルケージを作ってボトル周辺における空力悪化を最小限に抑えようという努力も見える。シートチューブに凝っている新型マドンやS5、フォイルらとは対照的なアプローチですが、個人的にはジャイアントのほうが理路整然としているように思えます。
なにより、空力に目がくらんでハンドルポジションを犠牲にしていないのがいい。
先述の通り、ハンドルをエアロにすれば空力性能は向上します。しかし、エアロにしすぎるとポジション自由度が極端に低下する。人間が乗って操って走らせるロードバイクになにより大事なのは、最適なポジションが出せること、です。かつてはそれが当たり前だったのに、空力性能向上という錦の御旗のもとに各メーカーは暴走をして、それが不可能になりつつあります。これは業界的に非常によくない流れです。
どんなステムやハンドルでも付くわけではなく、制限はあるようですが、新型プロペルのハンドル周りの設計は、他社のハイエンドエアロロードに比べればかなりマシ。僕はここに、世界最大のスポーツバイクメーカー、ジャイアントの良心を感じます。
(安井)
archives
- 2024年10月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年10月
- 2023年9月
- 2023年8月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年2月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年10月
- 2022年9月
- 2022年8月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月