懐中電灯。もしくは虫眼鏡。安物の腕時計、おもちゃの方位磁針、巻き尺、ねじ回し、双眼鏡。

子供の頃、それらを買ってもらったときのこと、覚えてますか?
なにか新しいことができるようになったような気がして、いつも持ち歩いて、意味もなくなにかを照らしたり、覗いたり、なにかを測ってみたりしましたよね。
まるで自分の能力が増幅されたような、新しい能力が突然備わったような、それを通して新しい世界へ行けるような、そんな気がしたものです。

ガーミン・エッジ830を買い、シマノからパワーメーター(FC-R9200-P)をお借りして使わせてもらっている今の僕は、まさにそんな状態。

帰ってきたら汗だくのままいそいそとログをアップしてコネクトラボでベクトルやパワーや距離や獲得標高を見て、悦に入ったり、落胆したり、唸ってみたり。
もちろん今までパワーメーターやガーミン、パイオニアのペダリングモニターは使ったことはありましたが、あくまで業務上の義務、仕事として。今回のように自分の自転車生活にしっかりと取り込んだことはありませんでした。

まぁ楽しいもんです。特にペダリングのベクトル表示は、自分の脚の動作を丸裸にしてくれます。これがあるのとないのとでは、ペダリングに対する理解に天と地の差ができます。それに加えて一日のライドの総走行距離や獲得標高が数値化されると、満足感が高まったような気がしますね。

しかし、梅雨が戻ってきてしまった先々週の金曜日、ちょうど帰宅時間に雨に降られてしまい、ガーミンとパワーメーターを付けたバイクを編集部に置いて帰ることに。
翌日の土曜日は、最近自転車づいている仲間に箱根に誘われていたので、久々にガーミンもパワーメーターも付けていない、エレキ要素ゼロのバイクで走ってきました。

最近はずっとメーターありきのライドをしていたので、物足りなく感じるのかと思いきや、これはこれで楽しい。
「○ワットしか出てない」「ペダリング効率低い」「○km/hしか出てない」などの現実から解放されて、数値やベクトルを気にすることなく、頭をからっぽにして、斜度に応じて高まる負荷や、バイクの挙動や、後ろに吹っ飛んでいく景色や、木漏れ日や、鳥のさえずりなどをめいっぱいに吸収しながら、純粋に乗ることだけを楽しむ。本能の赴くままに走り、身体が動きたいと思うように動く。自転車遊びの原点です。

夕刻、はこね金太郎ラインを足柄の街へ向かって下っていると、どこかもの悲しいヒグラシの鳴き声が山間に木霊して、それがあまりに美しいので、途中でバイクを止めて聞き入ってしまいました。パワーメーターを付けていたら、こんなことはしてなかったかも。

一転、先週はパワーメーター&ガーミン付きの自転車で、同じく箱根へ。すると、マインドが少しだけ変わります。箱根の山道で遊ぶという行為の中に、「自分のペダリングを可視化して分析して試行錯誤して、自転車乗りとして進歩する」という目的意識が芽生えます。ノーエレキライドとは違って、知的な快感が加わるんですね。

やっぱ自転車は面白いですよ。パワーメーターがあっても、なくても。

しかし難しいのは、このベクトル表示をどう噛み砕き、どう消化して栄養として取り入れるか、です。これは、パイオニア時代から答えを出せていない、個人的な課題でした。ベクトルを見てるだけじゃただの自己満足ですから。

というわけで、シマノがベクトル表示を復活させたことを機に、改めてパワーメーターについて、ペダリングのベクトルについて、じっくりと考える企画を進行中。先日は、ペダリングを追求し続けているハムスタースピンの福田昌弘さんに、FC-R9200-Pを主軸にたっぷりとお話を伺いました。これから気合を入れて執筆に入ります。近日公開予定なのでお楽しみに。

(安井)