野辺山の寒くて熱い一日
シクロクロスの起源は1900年代初頭。ロードの選手がオフシーズンの調整やバイクのコントロール能力を高めるために、トレーニングとして始めたといわれています。なのでシクロクロスのハイシーズンは秋~冬。この日本では、そんなシクロクロスが静かなブームです。
日本のシクロクロスシーンを牽引しているのが、野辺山シクロクロス(現在の正式名称は「ラファ+弱虫ペダル スーパークロス野辺山」)というイベントです。最近、やけに泥づいているLa routeは、コロナの影響で中止となってしまった昨年を挟んで2年ぶりの開催となる野辺山シクロクロスに取材に(遊びに?)行ってきました。
今回は競技に参加はせず(グラベルを走り始めて数か月でいきなり野辺山は……と尻込みした)、編集長安井の子供(男子×1)と、プロデューサー栗山の子供(女子×2)を連れ、さらに弊社スタッフ高山を加えた計6人でDay2の野辺山へ。目的はもちろんUCIレース観戦です。
雄大な八ヶ岳を眼前に望む野辺山を舞台に本大会が始まったのは2010年のこと。エントリーレベルのC4というカテゴリーからUCI公認となるトップレベルのレース、キッズクラスやシングルスピードまで、幅広いレベルのレースが2日間にわたって繰り広げられます。
過去大会の情報には「死ぬほど寒い」「ありったけの服を持ってこい」「選手はもちろん観戦者も泥でどろどろになる」などと書かれており、ビビってダウンから長靴から持って行ったのですが、今年は拍子抜けするほど晴天の穏やかな天気。コースだけでなく会場の路面は概ねドライです。
シクロクロスを観るのはこれで2回目。1回目は10年以上前に取材で訪れた埼玉のGPミストラルだったかと。そのときは慣れない取材でレースを楽しむ余裕なんてなかったのですが、今回は熱い闘いを堪能しました。
目の前を一瞬通り過ぎて終わり、のロードレースとは違い、シクロクロスは数kmの短いコースを周回します。コース全体が見渡せるのでレース展開を把握しやすく、しかも数十分~1時間程度で1レースが終わる。
コースと観戦エリアを分けるのはテープ一枚ですし、オフロードなので選手の必死の走りがまさに目の前で見られます。
暴れるバイクを必死に抑え込む選手。
滑って土埃をあげるリヤタイヤ。
汗と涎と一陣の風。
選手同士の肉弾戦。
フライオーバー。シケイン。落車。
さすがは11月の標高1300m、夕方近くになると気温が一気に下がりましたが、男たちの闘いは火傷をするほど熱かった。自転車は乗ってもイジっても楽しいものですが、シクロクロスは見るのも楽しい。これほどまでにダイナミックで荒々しいレースがこの近距離で体感できるのは、大きな魅力です。
息子(5歳)も、エリート男子で優勝した織田聖選手のバニーホップに歓声を上げていました。観戦という視点から見ても非常に優れた競技だと感じます。
前日には近くの旅館に泊まって、夜中に抜け出して子供と一緒にガタガタ震えながら東京では決して見ることのできない満点の星空を眺めたり。レース観戦後は露天風呂に立ち寄って大はしゃぎしたり。そういうことを含めて、“観光資源”としても優秀なシクロクロスでした。
一つ思ったのは、シクロクロスという世界に外部からもっと入りやすくなるといいのにな、ということ。“シクロクロス界”は独自の文化が強いだけにコミュニティが完成しており、外部からそこに飛び込むにはちょっと勇気がいるかもしれません(そう思っているのは外部だけで、実際はウェルカムなんでしょうけど)。
このような先鋭化された世界は、どうしても閉鎖的な雰囲気になりがちです。ブーム真っ最中にどんどんアンダーグラウンド化していったメッセンジャーの世界に身を置いていた者としては、その「閉ざされた感」が心地いいと感じることも多々あることは承知しているのですが、もっとオープンな雰囲気になれば、この「観戦する面白さ」がもっと広まっていくでしょう。シクロクロスだけでなくロードもMTBもBMXもトラックも同じでしょうけど。
家族が出場しなくても、知り合いがいなくても、「来年も見にこよう」と思えるような、シクロクロスがそんな世界になるといいと思います。だって見てるだけでもこんなに楽しいんだから。
(安井行生)
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