現代のサイクリストは、スペシャライズドというメーカー、とりわけSワークスというグレードに格別の信頼を寄せています。自然とターマックSL7を評価する目も厳しくなります。フレーム60万オーバーという価格に加え、SL7のデビューに伴って名車ヴェンジを葬り去るという事件も起きているので、なおさらです。

だから今回は厳しいこともたくさん書きました。

しかし難しいのは、色んなところで何度も書いていますが、剛性感に唯一の正解は存在しない、ということです。「ヴェンジのディスコンは大きな判断ミスだと思う」と書いたのは、あくまで一般サイクリストの脚力を考慮してのこと。

本原稿ではボツにした一文をここに載せておきます。
「ヴェンジオーナー諸氏は凹まなくてよい。新型ターマックに現行ヴェンジのあのバランスのいい走りはない。SL7はヴェンジの代替にはならない。なんなら今のうちに買っておいた方がいいくらいだ。3代目ヴェンジは、突然現れ、突然消えてしまった名車である」

現行ヴェンジと新型ターマックでは、剛性感に対する考え方が全く違うと感じます。『ヴェンジの空力に迫ったから、もうヴェンジはいらない』とかなんとか、そういう単純な話ではないと思うんです。

でも、これはあくまで僕の脚での感想です。だから今回は、僕とは体重もパワーもペダリングもポジションも違う小笠原さんに登場願ったというわけですね。

市販車として、プロレベルの脚力と、一般サイクリストの脚力のどちらに寄せるべきなのかという問いに対しては、唯一絶対の正解はありません。どちらにフォーカスしても間違いではない。以前のルック(695/695SR、595/595ウルトラ)のように剛性を2種類用意するとか、今はなきアンカー・RMZのように剛性を選べるシステムを構築するとか、夢物語を語るならパワーやペダリングに合わせて剛性感をオーダーできるようにするなど、正解に近い方法はあるのでしょうが、ビジネスを考えるとどれも難しいでしょうね……。

さて。今回はプレゼンの内容にシツコイくらいに噛み付いていますが、その意図を少し説明しておきたいと思います。
プレゼンと製品の実態とが大きく乖離していると感じたからです。
まぁメーカーの宣伝文句を真に受けてもしょうがないんですが、しかし多くのメディアはプレゼンの内容をそのまま文章に書き写します。中にはそれを読んで真に受けてしまう人もいるでしょう。
それではSL7の本質を理解できない。そう思ったので、ここまでねちねちと書いたんです。

マーケティングとエンジニアリングの乖離は今に始まったことではありません。それはメーカーの売り方として、ある意味しょうがないことでしょう。
問題なのは、マーケティングの手法に惑わされずにモノの本質を見抜こうとするメディアが少ないことです。
メディアに載っている新製品情報&インプレは、商品紹介(プレゼン書き写し)&試乗印象です。それは評論ではない。試乗の感想と評価・評論は全く別のものです。

自分が正しい評論ができているとは思っていません。
でも、そうでありたいと思いながらターマックSL7の記事を書きました。

(安井行生)