インプレの醍醐味
「色んなニューモデルに乗れて楽しいでしょう」
この仕事をしていると、よくこんなことを言われます。
でも実際は、インプレってそんなに楽しいものじゃないんです。
ずっと考え事をしながら走ってますし、度々止まってメモをしなければならないし……と、ライドに集中することができません。それに、自転車の各性能や性格を感じ、その理由を考えることにいっぱいいっぱいになってしまい、楽しむほうに能力を振り分けられなくなります。だから、「自転車と一体になる愉悦」のようなものはほぼ感じられません。
もちろん、試乗中にも「楽しい」と感じることはありますが、「自分の体重とパワーで『楽しい』と感じられるということは、このフレームの剛性感の仕立て方は……」という思考になってしまうので、「あー自転車ってたっのしいなー!」と純粋に楽しむことはできないんです。
また、いつものライドなら身体と頭と神経が3つ同時にバランスよく疲労していくものですが、インプレのときはそのバランスが崩れるのか、変な疲れ方をするんですね。体は元気なのに神経だけがまいってしまうとか、頭は冴えているのに集中力が切れかけるとか……。
でも、新型車の性能を感じることや、どうやってそれを実現させたのかを考えるのはめちゃくちゃ楽しい。エンジニアの想いと苦悩、技術部門とマーケティング部門の喧々諤々、メーカーとしての思想、宣伝文句と実態との乖離。立ち寄ったコンビニで、缶コーヒー片手に試乗車を眺めながらそういうことに思いを巡らすのは、この仕事の醍醐味だと思ってます。
そんなふうに色々と考えていたら、データ戦争過熱の現状、高級車のあり方、トレックというメーカーの剛性感に対する考え方、友人F君の話など、新型エモンダとは直接的には関係のない要素まで原稿に入ってしまいました。本筋から枝分かれしたそんな話も含めて、楽しんでいただければと思います。
「新型エモンダは、新世代万能ロードの旗手になるか(前編)」
「新型エモンダは、新世代万能ロードの旗手になるか(後編)」
さて、次のインプレは巷で話題になりまくっているあの1台を予定しています。このエモンダとはガチのライバルですね。現在、代理店に試乗車貸し出しのオファーをしているところ。無事に借りることができれば、8月下旬には公開できると思います。お楽しみに。
(安井行生)
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