完璧な予言

2023年2月、オランダのホーヘルハイデでは、赤と白の日の丸カラーのジャージを着た6人の日本代表がUCIシクロクロス世界選手権を戦っていた。大会全体を見れば、男子エリートのマチュー対ワウトの一騎打ちがあまりに鮮烈な印象として残っているが、世界中の猛者が集まるあのレースの中で日本人が走っていた事実は、現地にいながら誇らしかった。その一方で、国内レースで常に前を走る彼らが集団の後方に埋もれてしまう姿に、日本と世界の歴然たる差を突き付けられたのだった。

あれから1年。その差は明確に縮まったとは言い難い。ただひとつだけ大きな変化があった。
ホーヘルハイデの現地観戦を同行したフォトグラファーの田辺信彦さんが、実はこんなことを言っていた。

「将来的に日本代表の監督にはユウが適任だと思うんですよ」

ユウって……?

「竹之内 悠。現役だけど大学でも指導しているし、本場での経験がめちゃくちゃ豊富だから」 

当時僕は竹之内 悠選手のことは認識していたが、すでに監督業もやっているとは知らなかった。確かに、選手により近い目線、感覚でチームを支えてくれる存在がいた方が、不慣れな環境で短期間の戦いに挑むナショナルチームにとっては心強い。何となく頭の片隅に残っていたこのやりとりが、まさか数か月後に現実になるとは。

「竹之内 悠氏 ナショナルチーム監督就任のお知らせ」

10月26日付でJCFの公式サイトの中にひっそりとアップされたPDF。あまりに素っ気ないアナウンスだったため、僕がその事実を認識したのは、恥ずかしながらその1か月後の12月初めだった。

とはいえ、田辺さんの予言(?)は当たった。そして前回のナショナルチームの戦いをそれなりに近くから見ていた僕にとっても、これは間違いなくポジティブなニュースといえた。こうなったらぜひ、竹之内さんにインタビューをしたい。そして、僕が再び世界選手権に足を運ぶかどうかも、新監督の言葉や想いを直接聞いてから決めたい。

今年の世界選手権にはワウトもピドコックも出ない。
もし行くとしたら、彼が率いる日本代表を、現地で見届けたいと思ったときだ。

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