次の舞台はチェコ

遡ること1年前。オランダのホーヘルハイデで行われたシクロクロス世界選手権の男子エリート終了後。居合わせていた日本人の観客の方に「来年はチェコですよ。また来たいですね」と話しかけられて、熾烈なゴールスプリントを目の前で目撃して放心状態だった僕はふと我に返った。

「チェコか、また変わった国でやるな」

多くの日本人にとって、チェコは海外旅行先として真っ先に挙がる国ではない。しかし首都プラハの街並みの美しさや、ビール(ピルスナー)が美味いこと、アイスホッケーやサッカーが盛んなことなどはつとに有名だ。正式な国名はチェコ共和国と言い、かつてはチェコスロバキアという社会主義国だったが、1989年に共産党体制が崩壊し、1993年にはスロバキアと平和的に分離して今に至っている。

聞けば、そんなチェコもシクロクロス大国のひとつらしい。これまでに世界王者を2名輩出しており、一人が1991年の世界選手権を制したラドミル・シムネックSr.、そしてもう一人が、2010年、2011年、2014年と3度制覇しているゼネク・スティバルである。またチェコが世界選手権の開催国となったのも今回だけではなく、1972年のプラハを皮切りに6回を数える。特に2000年以降の4回はターボルでの開催が定例化し、2024年の開催地もそのターボルだ。

ホーヘルハイデの世界選の現場にいた時点では、来年も観に行くとは思っていなかった。とはいえ帰国してみると、見たもの、触れたもの、食べたもの、そのすべてが自分にとって新鮮だったと思い返す日々。あわよくば再び、シクロクロス取材にかこつけて異国の地を堪能できれば……なんて妄想を膨らます時期もあったのだが、やがて何事もなかったかのように日本での忙しない日常に再適応してしまうと、そんな想いは自然と風化していくのだった。

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