人はなぜ山に上るのか

「世界で最も過酷なサイクリングイベント」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか?

ツール・ド・フランスのコースを走るエタップ・デュ・ツール? それとも5,000kmかけてアメリカ大陸を横断するRAAM(Race Across America)?

その中に是非「台湾KOMチャレンジ(以下台湾KOM)」を加えて頂きたい。そして、アジアの魔境、太魯閣たろこの山々を走るこの台湾KOMが、僕にとって最も過酷なイベントだったということを涙を流しながら言いたい。

サイクリストや登山家でもなければ誰もが嫌う山道を、なぜ僕は上ったのか。
そこに山があるから?

昔の自分ならスカした顔でそう言うかもしれないが、この台湾KOMへの挑戦は、イベント参加1ヶ月前に会社をリストラされ、祖父が亡くなり、精神的にも社会的にも落ちぶれた自分が再び這い上がるために、未来の自分から吊るされたロープだった。

白石正人。1997年、ドイツ・ニュルンベルク生まれ。小・中学校をアメリカで過ごした後に帰国。日本体育大学在学時にPAS NORMAL STUDIOSブランドアンバサダーとして海外でのプロモーションに参加。ウェブ制作会社や某外資系メーカーに勤めた後フリーランスに。現在はPNSの代理店「MAGNET」のマーケティングサポートやグループライド引率を担当するほか、他業種でも映像制作やライティング、翻訳などコンテンツ制作全般の業務を請け負っている。プライベートではロード&MTBを楽しんでおり、来年は海外グラベルレースにも挑戦予定。

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2021.11.22

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ANCHOR・RP9試乗記| そこに“なにか”はあるか

やっと出てきた。アンカー初のエアロロード、そしてアンカー初のハイエンドディスクロードでもあるRP9。さらに、デュラエース完成車約120万円、フレーム価格約50万円という高価格帯への参入。アンカーにとって初めて尽くしの意欲作でもある。ライバルメーカーに対する遅れを取り戻せるか。競合ひしめくハイエンド市場で存在感を示せるか。オリンピックの興奮冷めやらぬ2021年9月の東京で、安井がRP9に乗り、真面目に考えた。

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