白紙になった企画

9月9日(土)、9月10日(日)にかけて行われるはずだった「ツールドふくしま」は、台風13号の大雨による影響でやむなく中止となってしまった。

ツールドふくしまは、東日本大震災に伴う津波被害の大きかった相馬市や原発事故によって帰宅困難地域に指定された川内村、葛尾かつらお村といった地域を舞台とした「福島復興サイクルロードレースシリーズ」全9戦のうちの一戦。9月9日(土)にはサイクリングイベントとタイムトライアルが、9月10日(日)にはロードレースが行われる予定だった。

ちなみにロードレースの最高峰カテゴリーである「上級コース」はその距離211km。国内の公道ロードレースとしては最長距離である。もちろんこれは210kmとなるツール・ド・おきなわを意識したものであり、主催者側の「おきなわを超えるレースにしたい」という想いの表れといえるだろう。

走るルートは、沿岸部を走る浜通りの最北に位置する新地町しんちまちをスタートし、福島第一原発事故の影響で避難区域とされていた南相馬市や浪江町といった市町村、さらに昨年8月にようやく歩行者や自転車の通行が可能になった国道6号の一部を通過し、葛尾村にあるフィニッシュを目指すというもの。

このように、震災から徐々に復興していく福島の「今」を見て、走って、知ることができる貴重な機会でもあるツールドふくしまは、単なるロードレースという枠にとどまらない意義を持つイベントとなるはずだった。

今回La routeでは、サイクリングイベントとロードレースの現場を取材。さらに後日、ツールドふくしまのレースディレクターである鵜沼うぬま 誠さん、そして自転車ジャーナリストの橋本謙司ハシケンさんという本レースの運営に携わった2人のキーパーソンにインタビューを行い、記事を制作しようと考えていた。しかし自然の猛威には勝てず、大会の中止が決まるとともに記事の制作もあきらめざるを得なくなってしまったのである。

とはいえ、12年前の震災で大きな被害を受けた福島県の沿岸部に実際に足を踏み入れ、台風による大雨にも晒され、開催を信じて会場に赴き、中止が発表される瞬間に立ち会い、来場していた参加者の声を聞き……というふうに、現地でしか目の当たりにできないことを体験してきたのは事実。ここは転んでもただでは起きない精神で、福島で過ごした4日間の取材記を残しておくことにする。

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