単なるレコードブレーカーではない

天気のいい日、あなたは散歩の途中に自動販売機を見つける。
汗もかいてきたことだし、スポドリでも買うとするか。
ガコンと落ちてきたペットボトルをひょいと拾い上げ、またぷらぷらと歩き始める。

ヨネックス・カーボネックスSLDのフレームは、何気なく片手に持っているその500mlのペットボトルくらいの重量しかない。

Sサイズのフレーム単体重量、540g。しかも、強化しなければならない場所が2カ所も加わるディスクブレーキ用フレームで。凄まじい数字だ。これに90kgの人間が乗って、100km/hで下れるなんて。

未塗装状態であり、製造公差が10g程度生じる可能性があるとはいえ、ヨネックスのことだから、“540前後”という数字は掛け値なしの本物だろう。カーボネックスのとき、製造してみたらカタログ重量より十数g重くなってしまったので頑なに出荷しなかった、という話を聞いたことがある。お客さんから納車を急かされているショップは「そのちょっと重いのでいいから出荷してくれよ……」とぼやいていたが。

とにかく、にわかには信じがたいレベルの重量。なにせ「ディスクロードのフレームってここまで軽くできるのか」と世を驚かせたあのエートス(49サイズの最軽量塗装で550g)より軽いのだ。

カーボネックスSLD。販売形態はフレームセットのみ(59万4,000円)。カラーは写真のブルー/グリーンとマットブルー/マットグリーンの2種。ラインナップはディスクブレーキ用のみでタイヤクリアランスは28C。電動コンポ専用設計で、BB規格はPF86となる。今企画のためにお借りした試乗車はXSサイズ。ハンドルとシートポストはプロのカーボン製、ホイールはデュラエースC36チューブレスだったが、コンポはアルテグラDi2にスージーステムという、決して軽さを重視したパーツアッセンブルではなかったものの、実測重量は6.51kg(ペダルなし)だった。

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