留目夕陽? 何て読む?

留目夕陽の名前を記憶に刻んだのは、2022年の全日本選手権ロードレース。

「とどめゆうひ」と読む彼は、20歳でEFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチームに所属したばかりの選手。中央大学の現役大学生でもあり、さらにレース当日のサポートは直前まで所属していた群馬グリフィンが行うという体制で、めずらしい名前に加えいろいろと情報過多だったことが第一印象だった。

しかしそれだけ記憶に残る存在だったことは確かで、以降は自然と彼の活動を追いかけるようになっていた。手足の長いスラリとした体型から「世界で戦えそうな若手が出てきたんじゃないの」という勝手な期待を抱いてもいた。当然ながら、体型が欧米人風だからといって有利だの速いだのという単純な話ではないのだが、少なくとも華があるレーサーだと感じていた。

2022年7月、群馬グリフィンの渡辺将大監督に取材した際も、留目夕陽の話題が出た。そして同年11月に行われたGRAND CYCLE TOKYOのレインボーライドで、ゲストライダーとして参加していた留目選手とLa routeプロデューサーの栗山が邂逅。その後、レース現場で見かけるたびにちょくちょく声をかける関係となった。

そしてこのたび、EFエデュケーション・イージーポストへの昇格、すなわち新城幸也選手に次ぐワールドチーム所属の日本人ライダーの誕生が明らかになった数日後に、じっくりと話を聞く機会を得た。彼に聞きたいことは山ほどある。そもそもトドメユウヒとは何者なのか。自転車との出会い、学生時代のレース活動、EF加入のきっかけなど、若干21歳にして自転車歴わずか6年の彼の半生をまずは確認しておきたいと思った。

そして何より、ワールドチーム昇格を果たした、今の率直な気持ちと将来の展望を聞いてみたい。この勢いでどこまで進化してくれるのか、新城幸也や別府史之以上のリザルトや活躍を見ることができるのか――。

あらゆる妄想や期待が肥大化して迎えたインタビュー当日、編集部に行くと、隣の「NARUTO COFFEE」のテラス席にライド仲間とケラケラ笑い合う留目夕陽選手の姿があった。

気負いがなく自然体。近寄り難い変なオーラもない。
レース会場でこれまで何度か会ったときと同じく、いつものトドメユウヒがそこにいた。

陸上選手からライダーへ

「中学時代に陸上部に所属していたんですが、怪我もあって思うような結果が出せず、楽しくなくなってたんです。でも体を動かすことは好きだったので、何か別のスポーツを始めたいと考えていたときに、たまたまテレビから流れてきたのがツール・ド・フランスの映像でした。見るなりすぐに『かっこいい』と思いましたね。それから街中で走っているロードバイクを見るたび、あのグニュっと曲がったハンドルもイケてると思うようになって(笑)。それで親にロードバイクを買ってもらったんです。中学3年生の夏でした」

初めて手にしたロードバイクは、ジャイアントのディファイ4。最初は趣味程度に乗っていたというが徐々にのめり込んでいき、高校から自転車競技に本腰を入れることを決めた。

留目夕陽とどめゆうひ。2002年6月18日、東京都生まれ。幼い頃からスポーツ好きで、小学時代にはサッカーに熱中し、中学時代には陸上部に所属。たまたま映像で見たツール・ド・フランスに憧れてロードバイクを手にしたのは中学3年のとき。高校入学を機に本格的に自転車競技を開始し、高校3年で出場したインカレ代替大会「全日本大学自転車競技大会」で優勝。2021年に中央大学に入学。2022年、群馬グリフィンに所属したのち、5月からEFエデュケーション・NIPPOディベロップメントチームに加入。ヨーロッパを拠点にロードレースを転戦し、来シーズンからはワールドチーム、EFエデュケーション・イージーポストへの昇格が決まった。ちなみに父親は都内を中心に和食系の飲食店を3店舗経営しているそうだが、本人の苦手な食べ物は「漬物」。

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