リズミカルな運動と離散的運動

千里の道も一歩から。自転車で遠くへ行くのも1回転のペダリングから始まる。それでは、最初の1回転目に求められるペダリング技術と2回転、3回転……と、その後の無数の連続回転に求められる運動技能は同じものだろうか? 運動学習・制御分野の研究では、これらの間に実は質的な違いがあるとされている。この分野の研究結果によれば、1回転目と2回転目以降のペダリング技術は、それぞれ個別に習得する必要があるらしい——。

自転車競技は幅広く、ロード・MTB・シクロクロス・BMXなどレース系種目のみをとっても求められるペダリング技術に大きな幅がある。ロードだけに絞っても、タイムトライアルのようにコンスタントに踏み続けるのが得意なタイプと、クリテリウムのようにストップ&ゴーを繰り返すことが得意なタイプの選手がいることを、筆者は現役時代から感じていた。

ペダリングのような繰り返し動作を運動制御の分野では“Rhythmic movement”(リズミカルな運動)と呼び、反対に単発の動作を“Discrete movement”(離散的運動)と呼ぶ。リズミカルな運動にはペダリング以外にも「ウォーキング」「ランニング」「ドリブル」のほか、「拍手」や「野菜の千切り」のような日常動作も例にあげられる。一方、離散的運動には「カップに手を伸ばす」「ボールを投げる」「何かを(一度だけ)蹴る」などがあげられる。先のロードレースの例でいえば、淡々とペダリングを繰り返すのはリズミカルな運動、コースや周囲の状況に合わせて強弱を入れたりストップ&ゴーを繰り返すようなペダリングには離散的な運動が含まれているといえるだろう。

ちなみに、リズミカルな運動は系統発生的に古い生物によくみられる。例えば、ゾウリムシは繊毛を数十ヘルツの頻度で繰り返し動かすことで移動する。一方で離散的運動は比較的新しい生物、特に霊長類でよく発達していることが知られている1Schaal, S., Sternad, D., Osu, R., & Kawato, M. (2004). Rhythmic arm movement is not discrete. Nature neuroscience, 7(10), 1136-1143.

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