ペダルの話はつまらない

2021年に3月に公開した「コンポメーカー各社の設計思想」の前編後編。執筆当初はこんなマニアックな記事、面白がってくれるだろうか、そもそも理解してもらえるだろうか、いったい誰が読むんだ、と相当気を揉んでいたのだが、読者の方に面白かった記事をお聞きするとトップ3に入るほどの人気となった。La route読者の方々の知識欲の旺盛さに改めて驚いた。

そういえばあれはグロータックがレバーの開発をやっていると聞き、「各社のレバーを分析してるだろう今なら面白い話が聞けるはず」と取材に行ったのだった。

今、グロータックはペダルを開発中である。
じゃ次はペダルだろ。
そんな思い付きで取材依頼をした。
しかし木村さんは開口一番、「レバーほど面白くはならないかもしれません」と言う。

出鼻をくじかれた、わけではなかった。実は僕もそう思っていたからだ。

木村:ペダルって基本的には単機能なんです。シューズをキャッチして、固定する。ひねれば外れる。それだけ。その中にどれだけ機能を盛り込めるか。そしてどれだけフィーリングを最適化できるか。そこが差になりますが、基本的には単機能。レバーほど違いがない。

安井:ですよね。

 

木村将行さん。某大手電機メーカー勤務を経て2009年にグロータックを創業。代表として社を牽引しながら、様々な製品の開発を行う。

木村:あとはコスト。ペダルは重量しかカタログスペックに表れないんです。基本的に軽くなると高くなる。主な機能には差がないので、軽さだけが商品力になって値段に反映されている。各メーカーの各モデルの価格-重量比のグラフを作ってみると、二次曲線的に分布するんですが、メーカーの特色も見えてきます。タイムは全体的に安くて軽い。シマノは安いけど重い。ルックはその中間。シマノは数が多いというのもありますが、タイムは海外で買うともっと安いですからね。そこには理由があるはずなんです。

グロータックがイコールペダル開発時に作成した表。シマノ・タイム・ルックの各グレードのペダルを、縦軸を価格、横軸を重量としてプロットしたもの。近似曲線の下側にある4つがタイムのペダル。数年前のデータだが、他メーカーに比べてタイムのペダルは「軽くて安い」ということが分かる。(提供/グロータック)

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