夏の終わりの、すくものはじまり

あれは夏の終わりが近い、8月末の話。昼下がり、眠気がどよ〜んと襲う時間帯だった。突如、筆者のパートナーである、ケンタロウからこんな提案があった。

「おマミ、“すくも”の、グラベルイベントに行かない?」

「す・く・も?」

知らない地名が耳に入りこむ。おマミ(筆者)の睡魔は一気に吹き飛びそして、「どこ?」という言葉だけが頭に浮かんだ。海外かと思ったが、話を聞けばバリバリの国内で、四国だという。

すくもとは高知県宿毛市のことで、四国の最南端エリアに位置する。距離にすると東京から約900km。飛行機で高知龍馬空港まで1時間半、さらにクルマで約2時間半、合計4時間強の長旅である。海外と比較すると、フィリピン・セブ島までの飛行時間と同じくらい? うーん、なかなかの遠さである…。

近い推し、ではなく、遠い推し

「すくも 遠い」でググッてみると、遠さをキャッチフレーズにした記事がスマホの画面上にずらりと現れた。それらを読むと、東京から“最も移動時間のかかる地”と書かれている。一般的には「駅近」「高速降りてすぐ」など、あらゆるものが“近い”を推す中で、あえて“遠い”をPRする視点に、好奇心が掻き立てられた。

この1年で名の知れた自転車イベントにいくつも参加させてもらったのだが、これまで全く聞いたことのない場所のイベントに自然と惹かれたというのもあったのかもしれない。おマミは二つ返事で参加を承諾したのだった。果たして満足度は、距離の“遠さ”を超えるのだろうか?

今回はおマミなりの視点で、実際に参加したローカルグラベルイベント「すくもグラベルまんぷくライド2023」の記録と、初上陸した高知の模様をリアルにお届けしたいと思う。

写真左がケンタロウ。ポッドキャスト「Replicant.fm」を運営。サイクリングカルトチーム「乗る練習」のメンバーでディレクションも行う。今回のすくもグラベルまんぷくライドでは撮影を担当。写真右が本記事の筆者、おマミ。ポッドキャスト「Replicant.fm」に出演するほか、不定期フードイベント「おまんでい食堂」を主催。自転車歴はまだ1年で、趣味でトレイルランニングも行う。

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