トオルとマスターのロードバイク談義

コロナ禍で急速に巻き起こった自転車ブーム。感染リスクを抑えながら楽しめるパーソナルな趣味として、自転車を始める人が増えたのは皆さんもご存知の通りです。本稿の主役のトオルさんもそのひとり。クロスバイクでの週末サイクリングがすっかり定着し、近頃はロードバイクに興味津々な彼ですが、聞けばつい先日自転車の師匠ができたのだとか。それが、今昔のバイク事情にやたらと詳しい喫茶店のマスター。トオルさんは自転車に関する疑問が湧くたびに店を訪れては、珈琲片手にマスターからロードバイクのイロハを学んでいるようですが…。

 

トオル
コロナ禍をきっかけにクロスバイクを手に入れた30歳独身のサラリーマン。現在は主に通勤や週末の20~30kmほどのサイクリングで自転車を楽しんでいる。近頃はロードバイクにも興味津々で、行き付けにしている喫茶店のマスターから手ほどきを受けている。

 

マスター
とある街にある喫茶店のマスター。今昔のロードバイク事情にやたらと詳しいのだが、どうやら若かりし頃にヨーロッパでレースメカニックをしていたとかなんとか。とことん突き詰める性格は今も変わらず、珈琲にも当然一家言あるらしい。

 

カランコロン♪

トオル:マスター、こんにちは!

マスター:おっ、いらっしゃい。今日はどこまで走ってきたの?

トオル:この前教えてもらった近くの市場まで。さすが、マスターが勧めるだけあってサイクリストもたくさんいましたよ! ご飯も美味しかったけど、色んな自転車が見られて楽しかったな〜。

マスター:あそこは昔からサイクリストの定番スポットだからね。交流の場にもなっているんだよ。

トオル:僕には交流なんてハードルが高くて、遠目に眺めているのが精一杯ですけどね(笑)。知識もないし、何を話していいのやら。あ、そういえばサイクルラックを見ていて思ったんです。「自転車の素材っていろいろあるけど、どう違うの?」って。スチール、アルミ、カーボンが主流だというのは知ってますが、それぞれどんな違いがあるんですか?

マスター:実は自転車のフレーム素材については、自転車歴の長い人でも誤解が多いんだ。例えば君が乗っているクロスバイクはアルミ製だよね。アルミニウムという素材は軽くて柔らかいのが特徴だけど、自転車業界では「アルミ=硬い」というイメージがある。このように素材自体の性質とフレームになったときの特性が逆転するというのはよくある。そこから生まれた誤解が正しい自転車選びを妨げてしまうこともあるから、素材を正確に理解することは大切なんだ。ひとつずつ説明していこう。

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