ことの始まり

ワーホリサイクリスト中内はここイギリスで運送系の仕事をしている。仕事柄ロンドンだけではなく、月に1〜2回は泊まりの出張でイギリスのあちらこちらを荷物の配達で駆け巡っていることもしばしば。
そんな中内の密かな楽しみといえば、トラックに愛車のアルゴン18を載せて出張先で仕事を終えた後にサイクリングに繰り出すことにあった。密かな楽しみとはいえ、しっかり上司にも毎回許可を取っているのでそこは誤解なきよう。

16時にはもう日没となる11月のある日、今月もまた出張の告知がでた。

今度の行き先は「コーンウォール」。

コーンウォールか。「イギリスで夏休みを過ごすならここ」と言われているくらいに人気のイングランド南西部に位置するリゾート地だ。ただ中内はすでにコーンウォールに出張で訪れており、1泊2日でサイクリングトリップをしていたのだった。
それだけに今回またコーンウォールと聞いて正直残念に思った。仕事だから仕方ないのだが。

「もう行ったことのあるところだし自転車持って行くのやめようかな〜」と同僚のS君に愚痴をこぼす。

「ならコーンウォールからロンドンまでの帰り道にあるブリストルから走って帰ればええんちゃいます?」とコテコテの関西弁で返す京都出身のS君。

ブリストルはロンドンから200km西に離れている都市だ。ロンドンからの日帰り観光でも人気のあるスポットであるが、中内はまだ訪れたことがない。

「確かにそれは良いアイデアかもです」と一旦地図を確認してみると、「あ、ウェールズの首都のカーディフも近いんですね。ウェールズも行ったことないし、距離も…270キロか。なら休みとって1日かけて帰れそうかもです。はい決まり!」と僕。

呆れた表情を見せながら空笑いをするS君を尻目に上司に早速休みの交渉しに行く。

上司も察した表情でニヤリとしながら、「気をつけてね」と一言。

こうしてウェールズからロンドンまでをサイクリングすることが決まった。あとはもう1泊分のホテルを予約して、さらっと観光地の下調べをして長距離サイクリングの準備をするだけだ。

仕事の特性を趣味にもいかす、これぞ究極のワーキングホリデー。可愛らしい街並みがたくさんあるコーンウォール。訪れたのは8月のベストシーズンで観光客でとても賑わっていた。すぐそばのビーチをサイクリングジャージで泳いだのは良い思い出だ。

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