(前編はこちら

設計が済んだら開発はもう終わりか。それでいいバイクができるのか。そうはいかない。いくら素晴らしい設計をしても、それなりの数を同じ品質で作れなければ意味がない。設定価格、生産設備、生産技術、人員などが設計に制約を加えるし、いくら高価なフレームであっても製造コストは重要なテーマとなる。

開発ストーリーをお聞きしたオフィス棟を出て、工場取材には必須の帽子を被り、隣接する製造棟へ。カーボネックスSLDの製造は、その製造棟の中の数カ所の区画で行われている。

それは「カーボンフレームの量産」という言葉から想像されるような、製造ラインに作業員がずらりと並んでガチャポンガチャポンとフレームを作っているようなものでは、全くない。たった数人の熟練工が、広大な工場の各所に設けられた自転車セクションで、それぞれの工程を丁寧にこなしているという、完全ハンドメイドである。なんと日産1台。よって、当日の取材タイミングによって見ることができない工程も多く出てきてしまう。そこは文章でなんとかフォローするよう努めた。

(1)プリプレグの裁断

前編にも出てきたが、カーボネックスSLDのフレームにはプリプレグ1炭素繊維の布に予めエポキシ樹脂を含侵させたもの。が約380ピースも使われている。もちろん、各ピースは大きさも形状も様々、繊維や樹脂や樹脂量や編み方や厚みや繊維の方向なども異なっている。

そこでまず、炭素繊維メーカーから仕入れた幅数メートルのプリプレグのロールから、正確にピースの形に切り出さなければならない(成型前のプリプレグは“生もの”なので、工場内に設けられた冷蔵庫の中で保管されている)。
カットするのは巨大なNC裁断機である。プリプレグの種類、形、向きなどが予めプログラミングされており、自動で最も無駄が少なくなるように裁断される。

カットされた数百個のピースは、ヘッドチューブ、トップチューブ、ダウンチューブ、BB周り……など、場所ごとに分けられ、貼る順番に並べてトレーに入れられる。そのトレーが向かうのが、貼り込みセクションである。今回の見学は、その貼り込み工程からスタートだ。

カットされたプリプレグ。大きさや形状からして、これはダウンチューブ用だと思われる。
開発者インタビューに続き、工場見学も技術開発第一部 スノーボード・サイクル開発課の川上清高さんに付き添っていただいた。初代カーボネックスから開発・製造に携わってきた、カーボンフレームのプロである。

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