ファーストコンタクト

その古びた建物は、行き止まりになっている路地にある。壁は蔦で覆われ、前に停められた軽トラの周りには、売り物なのか残骸なのか分からない自転車が積みあがっている。オートバイも数台混ざっていた。店内は薄暗くてよく見えない。窓には何のことだかよく分からないチラシが何枚も貼ってあった。

なんともはちゃめちゃな店構え。何かの倉庫なのか、リサイクルショップなのか、はたまた――。

入りやすく。敷居を低く。分かりやすく。フレンドリーに。必要なのは、清潔感と、親近感と、情報の開示です。外から店内がよく見えるようにすると、なおいいでしょう。

店構えのキーポイントを調べるとたいていこんなことが書いてあるが、このお店はそのどれも備えていない。かといって、あえて分かりにくく雑然とした雰囲気にして非日常感を出すというあざとい演出でもなさそうだ。自然とこうなったという感じ。

大きなチェーンリングのイラストと共に「SLOG BIKE SHACK」、「BICYCLE REPAIR SERVICE」との文字が壁にある。恐る恐る中を覗くと、古い自転車の大群の中に、大男が憮然とした表情で座っていた。予想通りの強面で髭面。両腕にはびっしりタトゥー。

「あぁ、NBくんから聞いてます」

これがファーストコンタクト。

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