ニセコグラベルの生い立ちを主催者に聞く

2023年9月末、安井と栗山は愛車と共に、再び機上の人となっていた。5月に行われたスプリングライドに続き、ニセコグラベルのオータムライドに参加するためである。
スプリングライドは土砂降りで、寒く不快で景色も見えず、北の大地を堪能できなかった。だから、メディアとして日本のグラベルイベントの決定版ともいえるニセコグラベルを快晴の下でしっかりと経験しておきたかったのだ。

日頃の行いがよかったのか、自転車の神様がさすがに不憫に思ってくれたのか、9月のオータムライドはこれ以上ないほどの快晴だった。寒くもなく暑くもなく、空気はカラッと乾き、羊蹄山は青空にくっきりとそびえている。自転車に乗るために用意されたような最高の一日。そんな中で北海道に来て自転車に乗れば、誰だって「すごく楽しかったです」という感想になる。

しかし幸い(?)なことに、La routeチームは雨と寒さとドロドロのスプリングライドも経験している。天国と地獄はさすがに言い過ぎだが、ニセコグラベルの両極端な春と秋への参加を通して、「日本のグラベルシーンのこれから」を語るというのが、今回のLa route Talkのテーマである。

2人の対談の前に、ニセコグラベルというイベントを包括的に知ることから始めたいと思う。まずはイベント終了から数日後に行った、主催者である一般社団法人HOKKAIDO EVENTSの前田和輝さんのインタビューからお届けしたい。

前田和輝さんはなんと沖縄県出身。関東で就職しサラリーマンをしていたが、ウインタースポーツ好きが高じてニセコに移住。現在はHOKKAIDO EVENTSでニセコクラシック、ニセコHANAZONOヒルクライム、ニセコグラベルの開催を手掛ける。

安井:快晴のオータムライド、楽しませていただきました。

前田:春は天気がアレでしたからね。秋は晴れてよかったです。

安井:まず、ニセコグラベルの主催団体である一般社団法人HOKKAIDO EVENTSについて教えてください。

前田:ニセコはパウダースノーが有名なスキーリゾートで、冬は多くの観光客が訪れます。一方、夏が閑散としてしまう。その冬と夏のギャップを埋めるため、ニセコが自転車イベントに着目したのが12~13年前。ツール・ド・おきなわを参考にしつつ、長距離ロードレースのニセコクラシックを開催しました。

安井:そのときはまだHOKKAIDO EVENTSは存在せず、主催はニセコクラシック実行委員会でしたね。

前田:そうです。ニセコクラシックがUCIグランフォンドワールドシリーズの一戦に組み込まれて徐々に大規模になり、さらにヒルクライム大会のニセコHANAZONOヒルクライムが加わったことで、実行委員会ではなくイベント会社を設立すべきということになり、一般社団法人HOKKAIDO EVENTSという団体を立ち上げたんです。現在は、ニセコクラシック、ニセコグラベルの春と秋、HANAZONOヒルクライムという4つの自転車イベントを主催してます。

安井:なるほど。では、ニセコグラベル立ち上げの背景を。

前田:ニセコクラシックがUCIグランフォンドワールドシリーズの一戦となったことで、UCIから「ニセコでグラベルワールドシリーズも開催できないか?」という打診があったんです。しかしいきなりワールドシリーズクラスの大会はできないので、まずはファンライドイベントをやってみようと。それがきっかけでニセコグラベルが生まれました。レースであれば参加者がレーサーのみに限定されてしまいますが、ファンライドイベントならいろんなユーザー層を呼び込めますし。また、グラベルイベントならニセコならではの魅力を発信できるとも考えました。

安井:きっかけはグラベルレースのオファーだったんですか。知らなかった。

recommend post


touring

奥鬼怒グラベルツアー参加レポート|山の奥の、そのまたむこう

「東京の奥座敷」と呼ばれる栃木県日光市の鬼怒川温泉。そこからさらに山深く入った場所にある奥鬼怒温泉は、鬼怒川の源流域にあたる。そこへ行くルートは未舗装路の奥鬼怒スーパー林道しかなく、しかも普段は自転車を含めた車両の通行が禁止されている。そんな「関東最後の秘湯」へグラベルロードで行くモニターツアーが開催され、安井行生が参加。山奥のグラベルは未経験だという安井は、“本当のグラベル遊び”を経験し、何を想ったか。

2022.12.07

interview

パナレーサー・グラベルキング開発譚│北米を席捲したメイド・イン・ジャパン

国内外でトップシェアを誇るグラベル用タイヤ、パナレーサーのグラベルキング。アメリカ主導のムーブメントにおいて、なぜ日本メーカーのタイヤが覇権を握ったのか。それまでマーケットが存在しなかった「グラベル」というカテゴリの商品を、いかにして作り、いかにして定番化させたのか。前半は、海外事業課の岡田雅人さんにグラベルキング誕生のきっかけを聞く。後半では、技術部技術・開発グループの久利隆治さんと佐藤優人さん、マーケティンググループの三上勇輝さんにグラベルキングの開発ストーリーを尋ねる。近年稀にみる、王の誕生の物語。

2022.08.22

interview

北米3大自転車ブランド座談会(前編)|ニッポンのグラベルロードの未来

日本のサイクリングシーンで「グラベル」という言葉を耳にしない日はなくなった。しかし、バイクの種類も増え、各メディアでその楽しみ方が紹介されるようになってなお、掴みどころのない幅広さを感じるのも事実である。そこで今回は、グラベルカルチャー発祥の北米を代表する3大自転車ブランド、キャノンデール、スペシャライズド、トレックのマーケッターに集まって頂き、グラベルの世界的な動向や日本市場の今を語ってもらった。ファシリテーションは、La routeでもおなじみの小俣雄風太が務める。世にも珍しい同業他社による、あけすけなグラベルトークを前編・後編に分けてお届けする。

2022.05.30

column

高岡亮寛のグラベル世界選手権挑戦記(前編)|レインボージャージを手にするために

大学時代にU23で挑戦したロード世界選手権は、優勝したイヴァン・バッソから20分以上遅れてのゴール。世界の壁は厚かった。本人曰く、「走るだけで精一杯」。その後、一度は競技の世界から遠ざかるが、外資系金融機関での激務のなかホビーレーサーとして知られる存在となり、2020年には自らのショップ「RX BIKE」を立ち上げた。そうして再び“自転車の人”となった高岡亮寛さんは、再度、世界を目指すこととなる。グランフォンド世界選手権、そしてグラベル世界選手権だ。2023年10月にイタリアはヴェネト州で行われたUCIグラベル世界選手権への挑戦記を、高岡さん自身の筆でお届けする。前編では、グラベルレースに傾倒している理由や、レース前日までの模様を記す。

2023.12.04

interview

冷静と情熱の間に――。高岡亮寛の自転車人生(前編)

U23世界選手権出場者、外資系金融機関のエリートサラリーマン、「Roppongi Express」のリーダーでありツール・ド・おきなわの覇者、そしてついには東京の目黒通り沿いに「RX BIKE」のオーナーに――。傍から見れば謎に包まれた人生を送る高岡亮寛さんは、一体何を目指し、どこへ向かっていくのだろうか。青年時代から親交のあるLa routeアドバイザーの吉本 司が、彼の自転車人生に迫る。

2020.05.30

column

La route栗山の自転車購入記(Vol.02)|仕事に必要だと君はいう

名車の誉れ高いスペシャライズドのヴェンジを譲ってもらってから早7か月。ヴェンジ、フェルトのカーボンロード、サーリーのシングルスピードの3台体制で自転車ライフを謳歌していたLa routeプロデューサーの栗山晃靖が、またもや自転車を買ったらしい。いろいろと理由はあるようだが、カラダはひとつ、そんなに複数台あってどうするのか。きっと誰のためにもならない…であろう自転車購入記の第2回、購入したのは果たして…。

2023.02.22

impression

スペシャライズド・グラベルロード3種試乗会参加レポート| 飛ぶか、這うか

グラベルロードというカテゴリーが盛り上がり始めて数年。各社から個性的なバイクが次々と登場し、市場は戦場の様相を呈している。そんな流れのなか、スペシャライズドの「メディア向けグラベルバイク試乗会」が開催され、同社の「クラックス」「ディヴァージュ」「クレオ」というまったく性格の異なる3台を同条件で比較させていただく機会を得た。ロードバイクを主戦場とする安井行生は、その3台に乗って何を思い、何を感じるのか。3台と3つのホイールをとっかえひっかえした、グラベル尽くしの試乗会レポートをお届けする。

2022.02.07

impression

Panaracer GravelKing SK|王様なのに女性的

La routeの制作メンバーが気になるor自腹で買ったアイテムをレビュー、100点満点で評価を下す連載「LR Pick up」。第6回はパナレーサーのグラベルキング。グラベルロード用タイヤとして超が付くほどの定番となっている理由とは? ラインナップ中、最もオフロード向けのSKを自腹で購入した安井が試す。

2022.03.16

interview

慶應義塾大学自転車競技部インタビュー|「勝てるわけない」を変える力

慶應義塾大学と早稲田大学というライバル同士がスポーツでぶつかり合う早慶戦。120年も前から行なわれている伝統の対抗試合である。野球やラグビーでは好試合を繰り広げる早慶戦、しかしこと自転車競技に関しては力の差が大きかった。自転車競技の早慶戦は1939年から行われているが、慶應の勝率、1割以下。特に近年は「早稲田が勝って当たり前」という状況が続いていた。しかし2022年12月に行われた早慶戦で、21年ぶり、早慶戦の枢軸であるトラック種目では実に40年ぶりに慶應が勝利する。勝てなかったレースに、なぜ勝てたのか。連載企画「若者たちの肖像」の第6回は、慶應義塾大学自転車競技部の主将、佐藤 岳さんと、副主将の山田壮太郎さんに快進撃の理由を聞く。

2023.02.20

interview

A Day in Peter Sagan

世界選手権3連覇をはじめ、グランツールで数々の偉業を果たした自転車界のスーパースター、ペテル・サガン。オーストラリアでの世界選手権の直後、そんなサガンが突如として来日。これにあわせてアジア各国のリテーラーやインフルエンサー、そして一般サイクリストを招いた「OWN YOUR ROAD」が開催された。3日間に渡って行われた一大イベントの模様を、岩崎竜太、田辺信彦の2名のフォトグラファーが切り取った珠玉の写真の数々でお届けする。

2022.11.16

interview

北米3大自転車ブランド座談会(後編)|ニッポンのグラベルロードの未来

日本のサイクリングシーンで「グラベル」という言葉を耳にしない日はなくなった。しかし、バイクの種類も増え、各メディアでその楽しみ方が紹介されるようになってなお、掴みどころのない幅広さを感じるのも事実である。そこで今回は、グラベルカルチャー発祥の北米を代表する3大自転車ブランド、キャノンデール、スペシャライズド、トレックのマーケッターに集まって頂き、グラベルの世界的な動向や日本市場の今を語ってもらった。ファシリテーションは、La routeでもおなじみの小俣雄風太が務める。世にも珍しい同業他社による、あけすけなグラベルトークを前編・後編に分けてお届けする。

2022.05.31

impression

SPECIALIZED DIVERGE STR試乗記|痛快な淘汰の物語

スペシャライズドのグラベルロード、ディヴァージュに“STR”のサフィックスを付けたニューモデルが追加された。トップチューブ後端から何かが伸びて、シートチューブに繋がっている。またスペシャがなにか新しいことを考え付いたらしい。STR =Suspend the Rider。「ライダーを振動から切り離す」だけなら、古の技術であるフルサスでいいはずだ。スペシャライズドはなぜ、ステム直下とシートポストに衝撃吸収機構を仕込んだのか。新作ディヴァージュSTRをネタに、安井行生が「自転車の速さと快適性」、そして「グラベルロードの在り方」を考える。

2023.05.01

column

La route高山のCX世界選手権観戦記| 熱狂の渦の、ど真ん中へ

マチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトの一騎打ちとなった「2023 UCIシクロクロス世界選手権」。あの凄まじいデッドヒートの現場に、La routeスタッフ高山がいた。毎年世界選手権を撮影しているフォトグラファー、田辺信彦さんからの同行のお誘いを受け、パスポートもない、語学力もない、シクロクロスも1年半前まで知らなかったという“ないない”尽くしの不惑ライターが過ごしたオランダ、ベルギーでの1週間。ただひたすらに見た、聞いた、感じた、世界選手権期間中のリアルなレポートをお届けする。

2023.02.27

column

UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース観戦記|グラスゴーで見た、世界最高峰の戦い

あらゆる自転車競技の世界選手権を同時期かつ同会場で行う、UCI肝いりの「メガ」世界選手権。今後は4年に一度のスパンで開催されるとのことだが、その記念すべき第一回大会がスコットランドのグラスゴーで行われた。ジャーナリストの小俣雄風太がツール・ド・フランスの熱狂も冷めやらぬまま、その足でスコットランドへ飛び、ロードのエリート男子を観戦。そこで見たのは、ツールとは一味も二味も違う選手たちの戦いだった。

2023.09.04

column

日本のオフロードを考える(Vol.1) ┃この国で土遊びは根付くのか

グラベルロードが盛り上がりを見せており、マウンテンバイクにも追い風が吹いている。一方、課題なのが“走る場所”問題だ。日本の未舗装路は法的に曖昧かつ複雑なことが多く、過去のマウンテンバイクブームでもクリアにならないまま。このままいけば、グレーゾーンだった場所ですら走れなくなる可能性もゼロではない。そこでLa routeは、自転車界のオフロード回帰が進んでいる今、この問題にあえてメスを入れたい。連載企画「日本のオフロードを考える」第1回は、暗部を含め日本のオフロードシーンを長年見てきた山本修二が自身の経験に基づき、「日本ではなぜオフロードの自転車遊びが根付かないのか」について考えた。

2021.10.25

interview

日本のオフロードを考える(Vol.2) ┃今そこにある危機(と希望)

前回からスタートした「日本のオフロードを考える」。第2回では、長野県で12年にわたってマウンテンバイクのガイドツアーを主宰しているトレイルカッターのお2人に話を伺う。トレイル整備の大変さ、日本でMTBを楽しむ難しさ、地域の人々の反対、過去のマウンテンバイカーの素行の悪さ……。グラベルロードがブームになって機材の選択肢が増え、ハードの面では追い風が吹いている。しかしソフト面では向かい風に曝されているように思える日本のオフロードシーン。しかし、そこにも希望はあった。前回に続き、聞き手&書き手は日本オフロード界の先駆け、山本修二だ。

2021.11.29

interview

日本のオフロードを考える(Vol.3) ┃国立公園初のトレイルが生まれた日

課題だらけの日本のオフロードシーンにメスを入れるべく始まった連載「日本のオフロードを考える」。第3回は、日本の国立公園初となるパブリックトレイル、「のりくらコミュニティマウンテンバイクトレイル」(NCMT)を取り上げる。「ヒルクライマーの聖地」として崇められる乗鞍に、突如誕生した本格的なトレイルだ。NCMTの誕生には、どんな裏ドラがあったのか。そして、NCMTは今後の日本のオフロードシーンにどんな影響を与えるのか―。NCMT誕生に尽力した2人のキーマンに話を聞いた。聞き手と書き手は、乗鞍という地に憑りつかれたジャーナリスト、ハシケンこと橋本謙司が務める。

2022.03.30

interview

日本のオフロードを考える(Vol.4)|NCMTの魅力と課題と可能性

日本のオフロードシーンにメスを入れるべく始まった連載企画「日本のオフロードを考える」。Vol.3では日本の国立公園初となるパブリックトレイル、「のりくらコミュニティマウンテンバイクトレイルズ」(NCMT)の誕生秘話をお伝えしたが、Vol.4では安井行生によるNCMTの実走レポートと、NCMTの誕生に尽力したキーマン、山口 謙氏のインタビューをお届けする。NCMTの本格運用から早数か月。乗鞍高原の自然を活かしたコースを走って、キーマンに話を聞いたからこそ見えてきた、NCMTと日本のMTBシーンの課題とは。

2022.11.21