歴代ドマーネをおさらい

栗山:今回のテーマはずばり「エンデュランスロード」です。トレックの新型ドマーネの試乗を通して、ロードバイクにおけるエンデュランスロードの立ち位置はどこにあるのかを考えたいと思います。本題に入る前にまずは過去のドマーネについておさらいしましょうか。

安井:今回の新型ドマーネは第4世代になります。第1世代が登場したのが2012年、カンチェラーラがパリ~ルーベでバリバリ走っていた頃ですね。ドマーネはエンデュランスロードというカテゴリーではあるんですが、基本的にはパリ~ルーベで勝つために作られたレーシングバイクでした。トップグレードに限って言えば、コンセプトは今も変わってません。

栗山:エンデュランスロードとして誰でも快適に楽しく乗れる点に主眼を置いてはいるけれども、トレックとしてはトップグレードはあくまでレーシングバイクだと。

安井:そうです。第1世代のドマーネの特徴は、サドル部分をとにかく柔軟にしたこと。そのために、シートチューブをトップチューブから切り離したんです。でも切り離しただけではシートチューブが左右にも動いてしまうので、トップチューブとの交点をリンクで結んで動く方向に制限をかけ、前後にのみ動きやすくした。

栗山:なるほど。あれはそういう構造だったんですね。

2013年モデルのトップグレードのドマーネ6.9。シートチューブとトップチューブは直接繋がっていないが、交点でベアリングが入ったリンクで締結し、前後方向にのみ動きやすくしていた。要するに「サドル部だけが前後によく動く自転車」である。(出典/トレック・ジャパン)

安井:試乗会のときに、思い余ってメーカーの人に内緒でIsoスピードのリンクを外してみたんですが(笑)、シートチューブの剛性はめちゃめちゃ低いんです。前後にも左右にも、ボヨンボヨンに動くんです。このIsoスピードという機構を初めて見たとき、「なんて無駄なことをやるんだ」と思いました。こんなの設計も製造も大変だしコストもかかる。確かに、サドル部分は快適になってるんですよ。でも、そこまでして得る価値のあるものなのか? と。シートポストそのものをしなやかに作れば、似たようなレベルの快適性は得られるんじゃないかとすら思いました。

栗山:シートポストサスペンションという考え方もありますし。

安井:そうなんです。

栗山:ともかく、サドルまわりで快適性を得ようというのが第1世代のポイントですね。快適性を得る設計って、フロントサスペンションだったり、リヤ三角に衝撃吸収システムを仕込んだりとほかにも考えられますよね。そうした技術がある中で、当時のトレックが快適性を担保するために導き出した解が、シートチューブのIsoスピードだったと。

安井:エンデュランスロードとして、どの部分を快適にすべきなのかというのは各社で考え方がバラバラなんです。チューブを扁平させてフレーム全体で衝撃を吸収するタイプ、後のルーベのようにハンドルまわりで振動吸収性を上げるタイプ、小型のリヤサスを仕込んでリヤホイールを積極的に動かすバイクも存在します。そんな中でトレックはサドル部分に注力したわけですね。

栗山:それがトレックなりの回答だったのかな。ちなみに第1世代のドマーネには、ハンドルまわりにIsoスピードはついてたんですか?

安井:一応、快適性を重視したフォークになっており、「Isoスピード」と銘打っていましたが、複雑な機構はなかったですね。

栗山:実際に乗るとどうだったんですか?

安井:確かに快適だし、快適なわりにはパワーライン(ヘッドチューブ~ダウンチューブ~チェーンステー)がしっかりしていてよく進むし、これはこれでいい自転車だなと思いました。でも、理詰めで技術を積み重ねてバベルの塔を作るような、「技術の力業」を感じましたね。ちなみに、第1世代のドマーネには2015モデルからディスクブレーキ版が追加されてます。

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