プロローグ

2022年7月4日、パリ・シャルル・ド・ゴール空港からTGVに乗って北部ダンケルクを目指す。すでにデンマークで開幕したツール・ド・フランスは移動日。7月5日からはフランス本土でのレースが始まるが、そのスタート地点がダンケルクなのである。

今年、実に14年ぶりにツール・ド・フランスに帯同し、取材するのだ。

最後にツールを取材したのは2008年。高校生の頃からの自転車好きが高じて、フランス語を学びこの世界最大のレースを追いかけた。選手になる選択肢はなくて、ただフランス文化の総体というか、ヨーロッパ文化の塊のようなこの巨大な催しを、文章と写真を使って何か伝えたい、そんな思いからだった。

2008年のツールで撮影した1枚。雨のステージのトマ・ヴォクレール。

当時22歳の若造には、途方も無い挑戦だったかもしれない。言葉こそ多少できても、文化の中へと分け入っていく視点と態度を伴わぬまま、ただ目の前をものすごい速度で通り抜けていくレースを追いかけて3週間が終わってしまった。文も写真も、あきらかに力不足だった。それでも20歳そこそこで、「世界」を見たつもりになって満足し、やりきったつもりになって別の生業を目指すようになった。その翌年に二人の日本人がツールを走った時には、ひどく後悔したことを覚えている。

14年前、20代前半の筆者。

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