La route自転車研究所 其の七│ペダルの設計意図を読み解く(前編)
自転車にまつわる様々な物事を深掘りする連載「La route自転車研究所」。第7回のテーマはビンディングペダル。第2回の「コンポメーカーの設計思想」に続き、グロータックの木村将行さんに協力していただき、シマノ、ルック、タイム、スピードプレイという4社のビンディングペダルを徹底分析。前編では、各社のフローティングや剛性感・安定感などの違いに迫る。ペダルが本当に有するべき機能とは何か?
2023.04.10
La route自転車研究所 其の七
ペダルの設計意図を読み解く(後編)
自転車にまつわる様々な物事を深掘りする連載「La route自転車研究所」。第7回のテーマはビンディングペダル。第2回の「コンポメーカーの設計思想」に続き、グロータックの木村将行さんに協力していただき、シマノ、ルック、タイム、スピードプレイという4社のビンディングペダルを徹底分析。後編では、おそらく誰も意識したことがないであろう“抜け止め”機能や“跳ね上げ”機能、各社のシャフトやベアリングの構造を解説する。
(前編はこちら)
木村:あとは皆さんの視点にはないであろう「抜け止め」に各社の差が表れますね。
安井:ぬけどめ?
木村:ビンディングペダルって、クリートを横にずらせば外れますよね。横にずらさない限り外れない。スプリングを弱くしても基本的には外れない。
安井:はい。
木村:その「絶対に外れない」という機能をどうやって実現しているか。これ、各ペダルメーカーが面白い工夫をしてるんですよ。でも見過ごしがちな視点じゃないですか。誰も注目しない。
安井:確かに。考えたことありませんでした。
木村:そういうところに違いがある。そこがペダルの面白さです。まずシマノですが、クリートを嵌めたときに、クリートのこの段差と、ペダルのここが噛み合うので……。
安井:あぁ、この段差が噛み合って、クリートが後ろに行かないようにストッパーになってるんですね。
木村:クリートを装着すると、爪が閉じるから上に抜けなくなる。引き脚で上に引いても爪がかかってるから動かない。この段差によってクリートとペダル本体が引っかかって後ろにもいかなくなる。爪は後ろには倒れるので、クリートに後ろに行かれると困るけど、段差がひっかかってるから大丈夫。段差は上には抜けるけど、爪が押さえてるから大丈夫。この相互作用によってクリートが固定されてる。でも左右には動けるようになっている。というか横にしか動けない。
安井:こいつかぁ。
木村:そうなんです。こいつ。だから僕ね、この段差削ってテストしてみたんです。そしたら瞬間でクリート外れました(笑)。
安井:良い子の皆さんは真似をしないように。悪い子の皆さんもね。
木村:クリートを理解したくていろいろ削りながら乗ってたんです。この段差を削ったらすぐ外れちゃう。もう全然乗れない。フラペと一緒。それでこの段差の重要性に気付いたんです。この2mmくらいの段差が世界中のシマノペダルユーザーを支えてるんです。世界中のレースのスプリントシーンがこの2mmに支えられてる。
安井:面白い。
木村:タイムとルックにはこういう段差はないんです。クリートの後部をボディに当てて抜け止めにしてます。シマノは前の段差で引っかけてる。ルックとタイムは後ろに引っかけを作って抜け止めにしてる。後ろで完結させてるわけですね。抜け止めは皆さん意識せずに普段乗られてると思うんですけど、じつはすごい大事。これがないとビンディングペダルにならないんです。
安井:なるほど。スピードプレイは?
木村:スピードプレイに抜け止めはありませんが、クリートをバネに食い込ませてるので、なくても抜けない。
安井:そっか。スピードプレイだけ構造が全く違うことがよく分かりますね。
木村:でもこのバネ、よく折れますね。バネの設計ってすごく難しいんですよ。
安井:レバーのときにも言われてましたね。
木村:そう。一応計算式があるんですが、たいてい計算通りにいかない。だから試作してテストしないと上手くいかないんですが、僕の勘で言うと、クリートを受けるために必要なバネのストローク量とこのバネの体積は、完全に破綻してる(笑)。
安井:なるほど。まぁだから折れるんでしょうけど(笑)。クリートを咥え込むには結構なストロークが必要ですよね。
木村:そう。前後それぞれ2mm、計4mmくらいは必要でしょうね。このバネの体積で4mmは応力集中が重なって折れますよ。疲労破壊する。バネって、シマノのように巻けばひずむ部分をたくさん確保できるんですが、スピードプレイの構造では巻けないですからね。
安井:確かに。でもスピードプレイも計算して試験してるはずですよね?
木村:彼らもさすがに分かってると思います。消耗品として割り切ってるんでしょう。
安井:折れたら交換してねと。
木村:そう。この構造だったらしょうがないっちゃしょうがない。ただレース中に折れたら嫌ですけどね。
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自転車にまつわる様々な物事を深掘りする連載「La route自転車研究所」。第7回のテーマはビンディングペダル。第2回の「コンポメーカーの設計思想」に続き、グロータックの木村将行さんに協力していただき、シマノ、ルック、タイム、スピードプレイという4社のビンディングペダルを徹底分析。前編では、各社のフローティングや剛性感・安定感などの違いに迫る。ペダルが本当に有するべき機能とは何か?
2023.04.10
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