なぜ僕らはキッズバイクを語るのか

La routeのメイン記事は毎週月曜日の18時に公開される。そのテーマは様々だ。試乗記事をはじめ、技術解説記事、人物インタビュー、開発ストーリー、ツーリングレポート、コラムなどがあり、人によっては興味のないジャンルになることもあるはずだ。

しかし今回の記事はさすがに……と思われるかもしれない。
特にお子さんのいない読者諸兄姉にとってはなおさらだろう。
テーマは子供用自転車、所謂キッズバイクである。
興味のない記事を無理に読む必要もないが、まぁ少し待ってほしい。

子は宝、などと言う。
正確には、「子に過ぎたる宝なし」とか、「千の倉より子は宝」らしいが。
子は親にとってかけがえのない宝物である。と同時に、次世代の社会を担う存在であり、社会にとっても宝でもある、という意味だ。
子供がいる/いないにかかわらず、自転車界という狭い世界においても「子は宝」なのだ。

自転車競技界では、若手発掘・育成に力を入れている個人・団体があり、自転車界の未来にとって重要な働きを担っている。しかし今回La routeで語るのは、それよりももっとずっと前のこと、人生で初めて自転車に触れるその瞬間から、少年少女を経て青年に至るまでに乗る、全ての自転車についてだ。

「子供と自転車」というテーマで語るのは、フォトグラファーの辻 啓、La routeプロデューサーの栗山晃靖、La route編集長の安井行生。3人とも自転車乗りであり、自転車に纏わることを生業とし、そして父親であり、キッズバイク選びに頭を悩ませた経験を有する。

初夏の東京西部、某公園で撮影を終えた3人はそれぞれのキッズバイクを手に、汗をかきながら編集部に戻ってきた。編集部の隣にあるカフェでオーダーしたコーヒーで渇きを癒しながら対談開始。

栗山:La route読者の皆さんは、「なんでいきなりキッズバイクなの?」って思われると思うんです。でも子供って未来そのものでしょう。子供たちに自転車の魅力を伝えて、未来のサイクリストを育てることは、結果的に僕らに返ってくるはずなんです。

辻:長い目で見たら絶対そうですよね。

栗山:そう。だから子供がいる方もいない方も、これからパパ・ママになる方もなる予定のない方も、この記事をきっかけにしてキッズバイク事情を知って、考えてもらえたらなと。

安井:わざわざこんなテーマで記事を作るということは、それなりの理由がありますね。「子供×自転車」の世界が順風満帆だったら、なにも言うことないですから。

栗山:そう。僕ら大人がこんなに自転車を楽しんでるのに、子供が自転車をちゃんと楽しむ・・・のって結構ハードル高いんですよ。

安井:移動手段や道具としてだけでなく、自転車で走ることそのものを「楽しむ・・・」という意味ですね。

辻:グラスルーツが大事って言われるけど、本当はさらにそれより前、原点に近い部分のキッズバイクが大事。なのに、今までそこはあまり語られてこなかった。調べればまとめサイトみたいなものは出てくるけど、ちょっと違うし。

1983年、大阪府堺生まれの辻 啓。国内外のロードレースを撮影するフォトグラファーとして世界を舞台に活動する。今年も夏に渡仏し、ツール・ド・フランスの撮影を行った。一男一女の父で、現在の愛車はサーヴェロのカレドニア-5。熱心な釣り好きとしても知られ、合間を見ては釣りにでかけている。
1978年、鳥取生まれ、岡山育ちの栗山晃靖。La routeのプロデューサーとして企画の立案・編集から様々な裏方業務を行う、本人曰く「何でも屋」。辻 啓からスペシャライズド・ヴェンジを譲り受け、取材にかこつけて日本各地を走っている二女の父。
La route編集長の安井行生は、1981年東京生まれ。初めて補助輪が外れた日のことは今でも覚えている。後ろで自転車を支えていた父の手が離れ、黒い子供用自転車が二輪だけで走り出し、ガシャンと倒れるまでの数秒間の「なにもかもから自由になった感じ」が忘れられずに、今に至る。一男の父。

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