そもそも選手のバイクは参考になるのか

安井:いやー今年のツールは盛り上がりましたね。僕はロードを始めた2000年くらいからツールを観てますが、最近は子供にテレビを取られるわ早く寝るようになるわでおざなりになってたんです。でも今年はしっかり観てしまいました。若手選手が台頭し、新しいチャンピオンが誕生し、闘い方が変わり、ツール史上最高の平均スピードを記録しました。と同時に、機材についても大きな変化が訪れました。というわけで、メカニック小畑の言いたい放題Vol.6は、2022ツールで使われた機材の分析です。

小畑:僕もツールは毎年見てるけど、今年はなかなか面白かったですね。レースも機材も。

安井:本題に入る前に。小畑さんはパーツアッセンブルの話をするときによくプロ選手のバイクを例に出されますが、そもそも選手の使用機材って我々にとって参考になるものですか? 選手にとってメーカーはスポンサー様でもあり、機材の選択には制限がありますが。

小畑:今はパワーメーターなどがあるから、機材の性能差は数値の差として出るはず。だから選手は乗りやすくて、かつ速い機材を選んでるでしょう。

安井:選手がレースで乗ってる自転車は基本的に「乗りやすくて速いもの」になっていると。

小畑:そう。選手が速く走ってくれないと機材を供給する側としても宣伝にならないし。

安井:確かに。実際、チームによっては機材の自由度はかなりあるようですね。数年前のスカイやイネオスを見ていると分かりますが、メーカーはディスクを売りたいはずなのにリムブレーキを使い続けてたり、山岳ステージでは堂々とスポンサー外のホイールを使ってたり。ある程度は自由に選べて、選手に有利なアッセンブルにできるんでしょうね。チームによって事情は大きく変わるでしょうが。

小畑:そう。もちろん何でもかんでも使えるわけじゃなくて、制限はあるだろうけど。とはいっても、「ワウト・ファンアールトが速かったからワウトの真似する!」じゃなくて、ある程度自分と背格好とかキャラクターが似てる選手の機材を参考にしたほうがいいです。ただし、最近はワールドツアーのアベレージスピードが上がってるから難しいところだけど。あの速度域で速い機材が一般人にとっても速いとは限らない。F1のタイヤを軽自動車につけてもいいことないです。

安井:ははは。

小畑:そこは見る目が必要。参考にするなら「その選手がその機材を使う意味」を考えるべきでしょう。「上りなのにアルピニストじゃなくてラピーデが付いてるのはなんでだろう?」とか。速度域が高くて重量的メリットより空力的メリットのほうが高いからかもしれないし、選手の好みでリムの慣性を利用したいからかもしれない。そういうことを考えるのがプロバイクを見る面白さ。

小畑 郁。1976年、東京生まれ。中学生の頃からなるしまフレンドに出入りし、そのまま就職。現在はなるしまフレンドでメカニックを務める。圧倒的な知識量と優れた技術は日本随一。リオモ・ベルマーレ・レーシングチームに所属してJプロツアーを走るレーサーとしても有名であり、“メカニック”と“選手”という2つの視点を持つ。(Photo La route)

recommend post


column

Le Tour ensemble(Vol.01)|14年ぶりの再会

ツール・ド・フランスの熱い夏がはじまった。選手、機材メーカー、スポンサー、オーガーナイザー、メディア、観客——。今年もそうしたすべてを飲み込み、プロトンは進んでいく。「Le Tour ensemble」では、14年ぶりに現地に赴いたジャーナリストの小俣雄風太による、ツール・ド・フランスのリアルな現地レポートを複数回にわけてお届けする。記念すべき第1回は、ツール取材を思い立ったきっかけ、そして7月4日から石畳ステージとなった7月6日までの模様を現地からレポートする。

2022.07.07

column

辻 啓のSakaiからSekaiへ(Vol.01)| 人生を変えた、トスカーナの一本杉

自転車のまちとして知られる大阪府堺市で生まれ育ち、今やサイクルフォトグラファーとして世界を舞台に活躍する辻 啓。これまでも「ジロ・ディタリア」をはじめとする世界的なレースに幾度となく帯同し、写真を通じてロードレースの魅力を発表してきたが、そんな彼にとって、写真とは、自転車とは、ロードレースとは何なのか。辻 啓自身が本音で綴るフォト&エッセイ第1回は、“初期衝動だらけ”の青年時代を振り返る。

2021.05.17

column

路上の囚人たち(Vol.01)

社会派ジャーナリスト、アルベール・ロンドル(1884―1932)。生前、精神病患者の悲惨な境遇、黒人奴隷売買の実態、南米のフランス人女性売春などをルポルタージュし、社会に大きな反響を巻き起こすとともに社会改革のきっかけをつくり、後世のジャーナリストに影響を与え続けた人物である。そんな彼が、1924年にあるテーマについて取材を行った。読者の皆さんもご存知の「ツール・ド・フランス」である。自転車競技についてまったくの素人である彼に、フランス全土を熱狂させていたこのスポーツイベントは一体どう映ったのだろうか――。アルベール・ロンドルが1924年6月22日~7月20日までの全行程5425kmの大会期間中に『ル・プチ・パリジャン』紙に寄稿したルポルタージュを、スポーツライターであり自身もフランス在住経験もある小俣雄風太の翻訳でお届けする。

2020.08.17

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.1) ロードバイクにディスクブレーキは必要か?

なるしまフレンドの名メカニックにして、国内最高峰のJプロツアーに参戦する小畑 郁さん。なるしまフレンドの店頭で、レース集団の中で、日本のスポーツバイクシーンを見続けてきた小畑さんは、今どんなことを考えているのか。小畑×安井の対談でお届けする連載企画「メカニック小畑の言いたい放題」。第1回のテーマはディスクロード。リムブレーキとの性能差、構造上の問題点などを、メカニック目線&選手目線で包み隠さずお伝えする。

2020.11.23

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.2) 新型デュラエース、大胆予想(前編)

来年の事を言えば鬼が笑う、という故事がある。予測のつかない未来の話をしてもしょうがないという意味だ。しかし、今回はあえて未来の話をしたいと思う。「メカニック小畑の言いたい放題」vol.2のテーマは、もうすぐ発表されるという噂の新型デュラエース。互換性は? 変速システムは? スペックは? 現行デュラエースの要改善点含め、小畑さんに次期デュラエースを予想してもらう。

2021.02.01

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.2) 新型デュラエース、大胆予想(後編)

来年の事を言えば鬼が笑う、という故事がある。予測のつかない未来の話をしてもしょうがないという意味だ。しかし、今回はあえて未来の話をしたいと思う。「メカニック小畑の言いたい放題」vol.2のテーマは、もうすぐ発表されるという噂の新型デュラエース。互換性は? 変速システムは? スペックは? 現行デュラエースの要改善点含め、小畑さんに次期デュラエースを予想してもらう。

2021.02.03

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.3) 今、最も優れているタイヤシステムは?

なるしまフレンドのメカニック小畑 郁が、編集長の安井とともに自転車業界のアレコレを本音で語る連載対談企画。定番のクリンチャー、人気のチューブレス/チューブレスレディ、話題のフックレス、そして古のチューブラー。どのホイール/タイヤシステムが優れているのか。フックレスは普及するのか。第3回目は、性能、脱着性、汎用性、ユーザビリティを含め、様々な角度からホイール/タイヤシステムを考える。

2021.03.08

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.4)| ベアリングチューンの極意

なるしまフレンドのメカニック小畑 郁が、編集長の安井とともに自転車業界のアレコレを本音で語る連載対談企画。第4回はベアリングについて。セラミックベアリングの効果とは? ビッグプーリーの意味とは? 正しいベアリングチューンとは? 回転性能はもちろん、整備性、耐久性などを踏まえて、メカニック小畑が忌憚なくベアリングを語る。

2021.07.16

column

メカニック小畑の言いたい放題(vol.5) |ディスクロードへの処方箋

なるしまフレンドのメカニック小畑 郁が、編集長の安井とともに自転車業界のアレコレを本音で語る連載対談企画。今回はミドルグレードのディスクロードについて。構造的にもパーツアッセンブル的にも重くなってしまいがちなディスクロード。特にコストの縛りが厳しいミドルグレード以下のモデルは、「持っても乗っても重い」になってしまうことが多い。どうすれば走りを軽くできるのか。悩めるディスクロードユーザーに贈る第5回。

2022.04.25

impression

La routeに新型アルテがやってきた(前編)

R9200系デュラエースと同時に発表されたR8100系アルテグラ。デュラの衝撃に隠れてしまった感もあったが、セミワイヤレス化、12速化、ローターの音鳴り解消など、デュラエース同様の進化を遂げた。シマノから新型アルテグラ一式をお借りしたLa routeは、なるしまフレンドの小畑 郁メカニックに組付けをお願いし、小畑×安井の対談で整備性、使用感、性能、その存在意義まで、多角的に新型アルテグラを検分する。デュラ同様に大幅な値上げをしたアルテグラに、その価値はあるのか。

2022.01.10

impression

La routeに新型アルテがやってきた(後編)

R9200系デュラエースと同時に発表されたR8100系アルテグラ。デュラの衝撃に隠れてしまった感もあったが、セミワイヤレス化、12速化、ローターの音鳴り解消など、デュラエース同様の進化を遂げた。シマノから新型アルテグラ一式をお借りしたLa routeは、なるしまフレンドの小畑 郁メカニックに組付けをお願いし、小畑×安井の対談で多角的に新型アルテグラを検分する。後編では、整備性や性能、デュラエースとの比較などを通し、新型アルテグラの真価に迫る。

2022.01.10

impression

ついに舞い降りた新型デュラエース。 その全貌を解き明かす(技術編)

R9100系から5年。遂に新型となるR9200系デュラエースがデビューする。12速化やワイヤレス変速といった機構で他社に先行されている今、シマノはデュラエースをどのように進化させたのか。8月中旬、和歌山の某所で行われた新型デュラエースのメディア向け発表会に編集長の安井行生が参加。前編ではシマノとの一問一答を通し新型デュラエースの設計意図を紐解き、後編では新型デュラエース搭載車を乗り込み、忌憚なき評価を下す。

2021.09.01

impression

ついに舞い降りた新型デュラエース。 その全貌を解き明かす(試乗編)

R9100系から5年。遂に新型となるR9200系デュラエースがデビューする。12速化やワイヤレス変速といった機構で他社に先行されている今、シマノはデュラエースをどのように進化させたのか。8月中旬、和歌山の某所で行われた新型デュラエースのメディア向け発表会に編集長の安井行生が参加。前編ではシマノとの一問一答を通し新型デュラエースの設計意図を紐解き、後編では新型デュラエース搭載車を乗り込み、忌憚なき評価を下す。

2021.09.03

column

挑戦者、シマノ(Vol.01)

1921年に創業したシマノ。スポーツ自転車向けパーツシェアが8割を超えていることからも、シマノが自転車業界の中心的存在であることに異を唱える者はいないだろう。しかし、そんな自転車界の王者とも言うべきシマノにも挑戦者だった時代が、確かにあった。100周年という節目の年に、スポーツジャーナリストとして多方面で活躍する山口和幸が、シマノが挑戦者として歩んできたこれまでの軌跡を複数回にわたって辿る。第1回はエアロダイナミクスを追求したaxや社内に巨大な風洞実験室をつくるなど、機能路線を牽引した島野敬三にスポットをあてる。

2021.12.20

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.2) 新型デュラエース、大胆予想(前編)

来年の事を言えば鬼が笑う、という故事がある。予測のつかない未来の話をしてもしょうがないという意味だ。しかし、今回はあえて未来の話をしたいと思う。「メカニック小畑の言いたい放題」vol.2のテーマは、もうすぐ発表されるという噂の新型デュラエース。互換性は? 変速システムは? スペックは? 現行デュラエースの要改善点含め、小畑さんに次期デュラエースを予想してもらう。

2021.02.01

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.2) 新型デュラエース、大胆予想(後編)

来年の事を言えば鬼が笑う、という故事がある。予測のつかない未来の話をしてもしょうがないという意味だ。しかし、今回はあえて未来の話をしたいと思う。「メカニック小畑の言いたい放題」vol.2のテーマは、もうすぐ発表されるという噂の新型デュラエース。互換性は? 変速システムは? スペックは? 現行デュラエースの要改善点含め、小畑さんに次期デュラエースを予想してもらう。

2021.02.03

column

メカニック小畑 の言いたい放題(Vol.3) 今、最も優れているタイヤシステムは?

なるしまフレンドのメカニック小畑 郁が、編集長の安井とともに自転車業界のアレコレを本音で語る連載対談企画。定番のクリンチャー、人気のチューブレス/チューブレスレディ、話題のフックレス、そして古のチューブラー。どのホイール/タイヤシステムが優れているのか。フックレスは普及するのか。第3回目は、性能、脱着性、汎用性、ユーザビリティを含め、様々な角度からホイール/タイヤシステムを考える。

2021.03.08

column

セッティング探求のすゝめ

タイヤやホイールはもちろん、ステムやクランク一つ変えるだけでも自転車の印象は変化する。自転車はそれら複数のパーツの集合体であるがゆえ、セッティングの世界は奥深く、しかも正解がない底なし沼のようなもの。STAY HOMEな今だからこそ、その沼にはまってみてはいかがだろう。がっつり走りに行かなくても、近所を一回りするだけで「セッティングの探求」はできる。参考までに、編集長の安井が普段どのようにセッティングを煮詰めているかをお届けしようと思う。

2020.05.08

impression

CORIMA・MCC WS+ DX試乗記 ディスクロード用高性能ホイールの行方

ホイールメーカー各社がロードホイールのディスクブレーキ化に四苦八苦している。特に、スポークパターンに制限があるコンプレッション構造ホイールが難しい。しかし、コリマはトップモデルであるMCCシリーズをディスク化してみせた。それはどんな方法で、どんな作りで、どんな走りになっているのか。コリマ・MCC WS+ DX 47mmチューブラーを題材に、ディスク時代の超高性能一体型ホイールのあり方を考える。

2020.09.28

interview

冷静と情熱の間に――。高岡亮寛の自転車人生(前編)

U23世界選手権出場者、外資系金融機関のエリートサラリーマン、「Roppongi Express」のリーダーでありツール・ド・おきなわの覇者、そしてついには東京の目黒通り沿いに「RX BIKE」のオーナーに――。傍から見れば謎に包まれた人生を送る高岡亮寛さんは、一体何を目指し、どこへ向かっていくのだろうか。青年時代から親交のあるLa routeアドバイザーの吉本 司が、彼の自転車人生に迫る。

2020.05.30