「そんなタイヤあったね」

その名前は忘れ去られようとしていた。
人々の記憶から消え去ろうとしていた。
ブリヂストン・エクステンザ。

なにせ前作のデビューは2015年である。変化の激しい現在のロードバイクシーンにおいて、8年というタイムギャップは絶望的なまでに長い。しかも、2015年はまだリムブレーキ、ナローリム、クリンチャー/チューブラーの時代。そこからディスクブレーキ、ワイドリム、チューブレスへとタイヤ事情は激変している。時代遅れどころの騒ぎではない。自転車にまみれて生きる筆者だって、アンカー・RP9/RP8の試乗車に装着されていたことで、やっと存在を思い出したくらいだ。

誰もが「そういえばそんなタイヤあったね」になりかけていたころ、エクステンザシリーズ、フルモデルチェンジの報が届く。驚いた。とっくにタイヤの開発は止めていたものだと思っていたからだ。しかもクリンチャーもチューブレスレディも1万円を大きく上回る強気な価格に設定されるという。

こうなると逆に興味が湧いてくる。
なぜ今になって?
海外メーカーのトップモデルと同等のプライスタグをぶら下げる理由は?
とりあえず、お借りして乗ってみることにした。

その前に、エクステンザシリーズの歴史を簡単に振り返っておく。
初代がデビューしたのは2009年。当時はレース向けのRR1、デイリーユース~エンデュランス向けのRR2というラインナップだった。世界的タイヤメーカーであるブリヂストンの名を冠したロードバイク用タイヤがリリースされたことは、業界にそれなりのインパクトを与えた。
2011年、マイナーチェンジを受けて第2世代となり、RR1XとRR2Xという名称に変更される。このとき、RR1SLという軽量モデル、RR1HGというグリップ重視モデル、RR2LLという長寿命モデルが追加されている。
2015年にはフルモデルチェンジを遂げて第3世代へ。R1シリーズは万能モデルのR1X、グリップ重視モデルのR1G、軽量タイプのR1Sという展開だった。なお、R2シリーズはサイズの拡充は行っていたものの、2011年から変更されていない。

2009年に発売された初代エクステンザ。RR1とRR2の2種類で、RR1は23Cのみ、RR2は23Cと25Cというラインナップ。(画像提供/ブリヂストンサイクル)
マイナーチェンジを受け第2世代となった2011年のRR1X。(画像提供/ブリヂストンサイクル)
2015年には初となるフルモデルチェンジを遂げ、R1Xへ。(画像提供/ブリヂストンサイクル)

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