5200の衝撃

あの夏の日の夜、大学時代に住んでいたアパートの前をトレック・5200で走り出したその瞬間に、全てが始まった気がする。

初めて買ったカーボンフレームが、USポスタルカラーの精悍な青色に塗られた、2000年モデルの5200だった。
7700系デュラエースの精密な操作感にも感動したが、なによりフレームの剛性に驚いた。
自転車はここまで鋭く加速するのか。ここまでよく進むものなのか。
それまで乗っていたアルテ組みのパナチタンとのこの違い。衝撃だった。
バイト代を全額突っ込んだ甲斐があったというものだ。

近所を一回り、のつもりが湾岸を爆走してお台場まで走っていった。帰るなり、すでに寝ていた彼女を叩き起こして、「すげぇよこの自転車!」とまくし立てた。ロードバイクという乗り物の真の実力を知った気がした。このとき初めて、高性能機材に対する畏敬の心と、自転車という機械に対する本当の興味が芽生えたのかもしれない。物事の何をも知らぬ、人生の何をも恐れぬ、青二才だった。

しかし、今となっては信じられないかもしれないが、それ以降トレックは、どんどん時代に取り残されていくことになる。フレーム素材としてカーボンに着目したのは早かったが、各社のフレーム設計がスローピングやインテグラルヘッド、フレーム異形化という新時代のフェーズに移行しても、ずっとホリゾンタル・ノーマルヘッド・細身の真円チューブを採用し続けていた。素人ながら金属時代の設計思想から脱却しきれていない感じがした。ツールを何度も制覇するなど地位は確立していたが、古典的な設計に固執するメーカーだったのだ。それでも性能的にはトップレベルにあったところが、なんともカッコよかったのだが。

トレック・5900(2003モデル)。当時、フレーム構造のトレンドはインテグラルヘッドやスローピングに移行しつつあったが、トレックはホリゾンタル&ノーマルヘッドに固執していた。(出典/trekbikes)

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