競うという本能

走る。
泳ぐ。
馬に乗る。
自動車や自転車。
飛行機や船もある。

移動すること、もしくは移動するものによって「どっちが速ぇんだ」を決めたくなるのは人間のさがだ。だからこれまで人間は、ありとあらゆるものを使って競争をしてきた。自動車も自転車も、発明されてすぐ競争を始める者が出てきたという。

高いところにある輪っかにボールを投げ入れたり、敵の陣地にある囲いにボールを蹴り込んだり、飛んできたボールをこん棒で引っ叩いたりと、競技の形態には種々あるが、「あいつより速く走りてぇ」という欲求はシンプルなだけに強烈なのかもしれない。スピードの魅力、魔力だ。

自転車に限定しても、速さを競う競技はロードバイク、シクロクロス、トラック、MTB、BMXなど多岐に渡る。だからグラベルロードというジャンルが発明・・されてすぐにグラベルレースが始まったのも、無理からぬことなのだろう。
グラベルという遊びをレースにすることの是非についてはここでの深掘りは避けるが、新ジャンルが開拓され、それによって自転車競技界が盛り上がるのは悪いことではないし、それを目的としたバイクが作られることも、選択肢が広がるという意味で歓迎すべきことだ。

そんなこんなで、アドベンチャー系グラベルロードとレース系グラベルロードを作り分けるメーカーが出現し始めた。かつてロードバイクは、軽量万能ロード、エアロロード、エンデュランスロードという3本柱を揃えることが多かった。しかしグラベルというカテゴリが想定するシチュエーションは舗装路主体のロードバイクより幅広い。
細かい砂利が敷き詰められたフラットダートから、「これってトレイル?」なオフロードまで。アドベンチャーライドから荷物を積んでのキャンプツーリングから平均速度40km/hのグラベルレースまで。走る環境も目的もバラエティに富む。マーケットの拡張に合わせて、メーカーがグラベルロードを作り分けるようになるのは当然の流れだろう。

昨今の自転車業界で最も成長したメーカーであるドイツのキャニオンは、初代グレイルとグリズルというグラベル系バイクをラインナップしてきたが、昨秋、新型グレイルを発表。La routeでもセカンドグレードとなるCF SLX 8 Di2をお借りして試乗記を作成することになった。それに合わせて、キャニオン・ジャパン代表の石山幸風さんが説明のために編集部を訪れてくれたので、一問一答を交えながら新型グレイル評をお届けする。

キャニオン・ジャパン代表の石山幸風さん。大手代理店勤務を経て、2014年にキャニオン・ジャパンを設立。2023年、八王子にキャニオン東京テストセンターを開設するなど、キャニオンユーザーのサポート体制強化に尽力する。過去にはC1で走っていたというシクロクロッサーでもある。

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