BMXで地元を駆けた少年時代

大阪にいくのなら、ぜひ会って話を聞いてみたいと思っていたのが、コーナー(ソウカワガレージ)の寒川勝一さんだ。

筆者が勝手にイメージしていた、職人的で少し強面なフレームビルダー像をいい意味でぶち壊してくれたのが寒川さんであり、それはLa routeの過去記事での佇まいや、自身のサイトで公開している製作実績を見れば明らか。実際、大阪府堺市郊外のガレージで会った寒川さんは、ただひたすらに真っ直ぐで、柔和な好青年だった。

とはいえ、ただの「好青年」では、厳しいフレームビルダーの世界を渡っていくのは難しいはず。この気鋭のビルダーはいったいどんな人で、どんなバックグラウンドを持っているのか。それを確かめるべく、まずは自転車との出会いから話を聞いた。

「初めてスポーツバイクに乗ったのは小学3年生のとき。当時地元でBMXをやっていた先輩を見て『カッコいい!』と思い、その年のお年玉を全部はたいてBMXを買ったんです。僕が住んでいた堺市の泉北というところは、どろんこ広場というBMXコースがある大泉緑地が近かったり、周辺が山を切り拓いたニュータウンだったので、ダウンヒル遊びができる丘もたくさんありました。だから近所の先輩や同級生の中でも自転車で遊ぶ子たちは多かったように思います。僕も愛車で近所を走り回りつつ、限られたおこづかいでペダルやグリップを自分好みのものに交換したりして、悦に入ってましたね(笑)」

スポーツバイクに親しみやすい環境で育った寒川さん。しかし中学生になると、ひょんなことからママチャリユーザーとなり、そこから新たな趣味とも出会うことになる。

「1台目のBMXは盗まれてしまい、めげずに買った2台目は先輩に売りました。理由ですか? 近くに大きなショッピングモールができて、その中のゲームセンターで遊ぶようになったからです。文字通り“遊ぶ金欲しさ”でした(笑)。そうして普段の足がママチャリになったんですが、同じ頃、これも先輩の影響でスケボーにハマるようになって。スケボーを持って遊びに行くときは、ハンドルとカゴの間に固定できるからママチャリは好都合だったんですよ。ちなみにママチャリにも加島のサドルを付けたりして、僕なりのこだわりは仕込んでました。やっぱり自分が気に入ったパーツを付けると、自転車により愛着が湧いて大切にしたくなる。そうした感覚は当時から持っていました」

1988年、大阪府生まれ。19歳でサイクルショップのアルバイトとして自転車業界に入る。22歳で自らのショップ「バイシクル・スタジオ・ムーブメント」を大阪・天王寺にオープン。その後、ケルビムの今野真一氏に誘われて東京サイクルデザイン専門学校の講師となり、20代半ばを東京で過ごす。2015年4月、地元の堺市で工房「ソウカワガレージ」を創業し、「コーナー」というブランド名でフレームビルダーとして本格的に活動をスタートさせた。なお「コーナー」という名称の由来は、本文で紹介したもののほかに、「東京での通勤ルートにあったカフェの名前」「コルナゴの別ブランド“コルナー”から」など、本人曰く諸説ある。「今思えば、もっとエゴサしやすい名前にすればよかったかも(笑)」。

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