想像を超えたスケール

この春、La route編集部が敢行した大阪取材。その締めくくりに訪れたのが、2022年3月25日にオープンした「シマノ自転車博物館」だ。

1992年に開館した「自転車博物館サイクルセンター」の移転・改称によって誕生したこの新たなミュージアムは、街の中心部からも近く、幹線道路に面した好立地にある。旧館と比べると展示面積が大幅に拡大されただけでなく、映像やデジタルデバイスを活用するなど展示手法も格段に進化したという。はたして2時間そこらで隅々まで回りきれるのかという不安がよぎりつつ(そして不安は的中するのだが)、期待に胸を膨らませながら現地を目指した。

阪急電鉄高野線「堺東駅」から徒歩5分。白いファサードの真新しい建造物が目に飛び込んで来た。これがシマノ自転車博物館。旧館に比べるとスタイリッシュな建物に生まれ変わっている。

建築設計は、シマノ本社工場も手がけた芦原太郎建築事務所が担当。ガラス張りで軽やかな1階部分が重厚な2F〜最上階部分をリフトアップしているようなデザインは、シマノ本社工場とも通ずる。存在感はあるが威圧感はなく、周囲の街並みに溶け込む絶妙な佇まいが印象的だ。

つい自分の中の“建築好き”が先走ってしまったが、肝心なのは博物館の中身。

ワクワクしながらエントランスを抜けると、シマノ自転車博物館参与の神保雅彦さんと事務局長の長谷部雅幸さんが出迎えてくれた。

神保正彦さん。1984年、株式会社シマノ入社。数々のコンポーネントの新製品開発・企画に携わったのち、近年では「ライフ・クリエーション・スペースOVE」の立ち上げなど自転車文化の推進にも尽力。現在、公益財団法人シマノ・サイクル開発センター参与。早稲田大学自転車部時代は、熱心にロードレースに打ち込むバリバリのレーサーだった。現在はシティバイクや電動アシスト自転車をのんびり流して楽しんでいる。
長谷部雅幸さん。1973年、株式会社シマノ入社。シマノレーシングで活躍したのち、数々のコンポーネントの開発・設計、営業を担当。シマノヨーロッパ駐在を経て帰国後は、神保さんとともにDi2の開発も行なった。現在、公益財団法人シマノ・サイクル開発センター事務局長。50歳でツール・ド・おきなわの市民の部50kmで優勝するなど、今でもあらゆる自転車を嗜む。「僕が自転車でやったことないのはサイクルフィギュアだけ(笑)」。

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