プロローグ

1962年生まれのボクが小学生のときにものすごく欲しかったものは、単一乾電池を直列で6個並べて光るフラッシャー(方向指示器)付きのジュニアスポーツ車だった。ちょっとカッコ悪いセミドロップハンドル仕様で、前照灯にポルシェを真似たようなリトラクタブルライトを装備しているものもあった。変速レバーはトップチューブにあって、クルマのコンソールボックスに似せてレバー周りを箱で覆ったデザインをしていた。

スポーツカーを運転したいけど、自動車運転免許なんて持っていない男の子たちに向けて考案された自転車だ。レーシングドライバー気分で変速レバーに手をかけると、ガチャガチャと音がして1段ごとに変速する。ところが精度が低かったのか、思ったようにチェーンが意図したギヤに移らないのも愛嬌だった。

ボクの記憶にあるのはそんな程度で、当時はもちろんどんな会社が自転車パーツを作っているのかなんて興味もなかったし、眼中にもなかった。

「おもちゃみたいなの、いっぱい作りました。実はあれから来ているんです。SIS(シマノ・インデックス・システム)は」

その独特のクリック音から通称『パチパチ』。1983年にニューシマノ600EXに初搭載された新機能で、1984年9月には満を持して7400デュラエースに搭載。最終章では、今では世界が追従したシマノ独自の位置決め機構、インデックス・システムの開発秘話をお届けしたい。

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