賛否両論渦巻くオリンピック

コロナ禍による緊急事態宣言が発令される中、前代未聞の無観客開催(※一部競技を除く)により全日程を終えた東京2020オリンピック。近代五輪の長い歴史でも、これほどまで開催への賛否両論が渦巻く中で実施されたオリンピックはないだろう。

出場選手は外部との接触を封じるバブル方式を厳守するなど、何もかもが異例づくしだった東京大会で、自転車競技の男子ロードレースは開会式翌日の7月24日に行われた。増田成幸ますだなりゆき選手は、日本代表チームとして新城幸也選手と共に出場。東京・調布市をスタートした234kmのレースは、酷暑の影響もあり40名以上がDNFとなる過酷な展開となったが、最終位から2番目の84位という成績で完走を果たしている。

日本勢がメダルラッシュに沸いた中、増田選手の残した結果は華々しいものではなかったかもしれない。しかし、集団からちぎれたレース終盤、疲労困憊となりながらもひとり必死にゴールを目指し続けたその姿には、観る者の心を大きく揺さぶる力があった。レース後には自身のTwitterで「あまりの辛さ痛み苦しさに何度も自転車を降りてしまおうかと、よぎったけど。辞めずにゴールを目指しました。オリンピックだから。」と記した増田選手。なぜ “オリンピック” という舞台は、それほどまでに特別なのだろうか。その答えを聞きたくて、オリンピックもとうに閉幕した8月後半、増田選手の活動拠点である栃木県宇都宮市へと向かった。

インタビューは増田選手の所属チーム「宇都宮ブリッツェン」の本社で行われた。穏やかな表情で取材陣を出迎えてくれた増田選手の手には、1台のMY扇風機。当日のトレーニングを終えた直後ということもあり、エアコンが効いた室内でも汗が止まらないのだと笑う増田選手の話は、のどかな扇風機の風を受けながら始まった。

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