ビルダー4名が語る、 金属フレームのこれから(前編)
年齢も性格もビジネスの形態も使う素材も考え方も違う。しかし日本のオーダーフレーム界を背負って立つという点では同じ。そんな4人のフレームビルダーが、各々のフレームを持ってLa routeの編集部に集まってくれた。金属フレームの可能性について、オーダーフレームの意味について、業界の未来について、モノづくりについて、忌憚なく語り合うために。その会話の全記録。
2020.04.24
Tomii Cycles/冨井 直インタビュー
フレームに宿る“美”と“楽”
テキサス州の州都、オースティン。ライブミュージックの街としても知られるこの地に、「Tomii Cycles」というブランドを立ち上げた日本人フレームビルダー冨井 直がいる。現代アーティストを目指して1998年に渡米した彼は、なぜ2011年に自身のフレームブランドを立ち上げることになったのか。自転車との邂逅、彼の地でのKualis cycles西川喜行さんとの出会い、そしてフレームづくりへのこだわり――。かねてから親交のあるフォトグラファー田辺信彦が現地でインタビューを行い、冨井 直の素顔に迫る。
田辺:ナオさんと初めて会ったのは確か2011年。当時はTomii Cyclesを立ち上げた直後だったはずなので、それ以前の話を詳しく聞かせてもらえますか?
冨井:子供の頃から絵を描いたりプラモデルを作ったりするのが、自分で言うのもなんだけど上手だったんだよね。学校では図工とか美術の成績は常によかったよ。他の科目は全然ダメだったけどね(笑)。運動とか部活とかもやっていなかったから中学の時はいわゆる帰宅部だったんだけど、帰り道にホームセンターに寄るのが楽しくて楽しくて毎日のように行ってた。ネジとか部品、工具とか変なもの、見たことないものがたくさん売っているからそれを見るのが本当に好きだった。あとはクルマとかモーターサイクル。乗り物は小学校かそれよりももっと前か、とにかくずっと好きなものだね。
田辺:アメリカに来るきっかけって何だったんですか?
冨井:高校3年の時に進路をどうするかで少し悩んだんだよね。クルマの整備とかにも興味があったからそういう専門学校を目指すのか。それとも美術とか絵を描くのも好きだからアート系の学校を目指すのか。それでアートの方が何となく楽しそうだよなーと感じてそっちに進もうと思ったんだ。
田辺:クルマのメカニックとアート、だいぶ方向性が違いますね。
冨井:結局、地元の新潟にあったデザイン専門学校のファインアート科に入って2年間通った。その学校はボストンにある美術大学と提携してて、アメリカに留学できるプログラムも用意してたんだ。アメリカに行くことになったのは、それがきっかけ。今思うとそのプログラムがなかったらアメリカに行くことはなかったかもしれないね。勉強して試験を受けてアメリカの学校に行く…なんてタイプじゃないからラッキーだったと思う。
田辺:人生の転機だったわけですね。
冨井:アメリカのホットロッドとかのクルマのカルチャーはもちろん、ファッションにも興味があったから、アートを学びたい半分、日本にはない世界やカルチャーを感じたい半分でアメリカに来た。だから最初は2年しかいる予定じゃなかったんだけど気がついたら24年もアメリカにいるね(笑)。
田辺:まだ全然自転車が出てこないんですけど、そこからどうやって自転車に出会ってフレームビルダーになったんですか?
冨井:アメリカの学校にもファインアート科に編入という形で入ったんだけど、3、4年次になると専攻を決める必要があって「スカルプチャー」を選んだんだ。スカルプチャー、日本語にすると彫刻だけど、本来は立体物全般にあたるもの。だから色々な素材を使って3次元のアートを作る感じだね。アメリカの学校は自由で作業場とか工具とかも好きに使ってよかったし、ちょっと田舎にあったのもあって作業場にこもって作品をたくさん作っていたよ。学校内のコンペで賞とかも何回も獲った。
田辺:そのころから金属加工も?
冨井:まだその時は金属での制作はしていなくて、木や石膏を使ってとかだったね。で、2年なんてあっという間で、アートの制作もそうだしアメリカのカルチャーをもっと知りたい想いもあってここに残りたいと思った。でもビザがなくなるしどうしようと思っていた矢先、あるきっかけでアメリカに居続けることができたんだ。
田辺:あるきっかけとは?
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