自転車配送人として都内を這いずり回っていた頃、自転車素人ながら我がメッセンジャー会社のドアをノックしたヤツがいた。欽ちゃん劇団に所属するお笑い芸人志望という、相当変わったヤツだった。彼はなるしまに行き、勧められるがままにローンでロードバイクを買い、メッセンジャーを始めた。そのロードバイクが、白いギザロだった。20年以上も前の想い出である。
ギザロとは、ミノウラ、シマノ、ロッキーマウンテン、グッドイヤーなどを取り扱う老舗総合卸問屋、株式会社フカヤ(旧・深谷産業)が展開するオリジナルブランドだ。当時、安価ながらそれなりのスペックを備えたロードバイクを多くラインナップし、「入門者に最適な一台」として市場で存在感を放っていた。メッセンジャーとしては飛び抜けて有能というわけではなかった彼が買ったのは、アルミ/カーボンバックフレームのギザロ・G-1だったと思う。
当時、ロードバイク界のスーパースターといえば、ピナレロにコルナゴにデローザ。チネリが輝き、ルックが気を吐き、フォンドリエストやカレラが後を追い、タイムが彗星の如く現われ、トレックが頑張っていた。あのスペシャですら「ロード界の一年生」程度の扱いだった。今から思えばヨーロピアンロードの全盛期だ。
“GHISALLO”という、欧州志向のブランド名から察せられるように、ギザロはそれらヨーロッパ勢を強く意識したものだったが、ピナレロやタイムに憧れ、配送で得た給料の大半をそれらの購入に充てていた筆者からすると、失礼ながらギザロは選択肢にすら入らない存在だった。確かにそのコストパフォーマンスはすさまじく、ショップでもレース会場でも多くのギザロを見かけるのだが、ブランドとして世に広く受け入れられるには至らず、いつしか影が薄くなっていき、市場からも記憶からも消えていった。
ヨーロピアンロードの勢いが衰え、実際に多くのメーカーが姿を消し、それらと入れ替わるかのように北米系メーカーが市場とレース界を席巻しているそんな今、日本市場でギザロの名が再浮上する。ラインナップは、シクロクロスバイクのGX-110、エンデュランスロードのGE-110の2台。主観ではあるが、かつてのような「ヨーロッパに憧れてるんです」的なイメージはそこから消え去っていた。
現在勢いがあるエアロロードでもグラベルロードでもない車両企画と、かつてのギザロとは似つかないほど洗練された一見無国籍風のルックス。それに高価格化が叫ばれている今にあって良心的なプライスタグ故か、この2台は結構な話題を呼ぶ。
筆者も「ほう、あのギザロがねえ……」と興味深く見ていたのだが、今年1月に行われたワイズロードスポーツバイクデモにてちょい乗りしたGX-110のバランスが予想以上によく、新生ギザロにより興味がわいてきた。
ギザロというブランドに何があったのか。
GE-110をお借りして、本格的に乗ってみることにした。
ちなみに、白いギザロのオーナーであった元メッセンジャーの彼は、ブリュワーになるというもう一つの夢を実現させる。それだけでなく、横浜ベイブルーイングを立ち上げてクラフトビール界では知らない者はいないと言われるほどの存在になり、今では世界中を飛び回っている。
人は変わるものだ。ギザロはどうか。