アルミフレームは柔らかい

ちょっと素材に詳しい人ならば、「アルミで自転車のフレーム作ったら快適で柔らかいものになるはずだ」と言うだろう。
その通り。本来、アルミは柔らかい素材だ。スチールフレームのアタマのままアルミフレームを作ったら、ふにゃふにゃでどうしようもない物体になる。実際、極初期のアルミフレーム、アランやビチューやレイダックはそうだったらしい。

アルミは、重さが鉄の3分の1しかない軽い素材だ。剛性は低く、これも鉄の3分の1程度。さらに言えば、強度も鉄より低い。だから我々自転車乗りが抱くイメージとは逆で、「アルミは柔らかくてしなやか」「鉄は硬くてがちがち」なのだ。

「アルミで自転車のフレーム? もしかしたらかなり剛性高くなるかもしれないね」。
少し設計に詳しい人なら、そう言うかもしれない。
そいつもまた正しい。アルミは軽くて弱くて柔らかい素材だから、弱点である「弱さ」と「柔らかさ」を設計でカバーしなければならない。しかし、せっかくアルミを使うのだから、長所である「軽さ」はできるだけ犠牲にしたくない。

それを実現するには?
形状で工夫すればいい。自転車のフレームなら、チューブの断面形状だ。
アルミの黎明期、そう考えて、キャノンデールやクラインが、鉄フレームとは似ても似つかぬ太いアルミフレームを作った。当時はメガチューブ、ファットチューブなんて言っていたものだ。
太くすれば当然剛性は上がる。
しかもアルミフレームは溶接で作る。アルミは強度が低いので、細身のフレームだと溶接長が確保できず、フレームとして成り立たない。チューブを太くすれば、溶接長を長くでき、強度面でも有利になる。

アルミで自転車に必要な強度を確保しようとすると、大径そして肉厚にしなければならず、どうしても剛性が上がってしまう。
一方、鉄は重いので大径にはできないし、そもそも強度が高いので大径にする必要もない(だから細身なのだ)。できるだけ軽くしようとすると肉薄にせざるを得ず、どうしても剛性が落ちてしまう。

その結果、フレーム体として出来上がったときに、「アルミは硬い」「鉄はしなやか」と、物性とは逆の振る舞いをする。それが自転車の面白いところかもしれない。ちなみに、いい塩梅のところに着地するのがチタンだ。

弱点を補おうと頑張った結果、いつしか素材特性の反対側まで行ってしまった。
それがロードバイクにおけるアルミフレームなのである。

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