(前編はこちら

転がり抵抗のメカニズム

安井:ではみんな大好きな(笑)転がり抵抗について。そもそも、転がり抵抗ってなぜ生まれるんですか?

久利:エネルギーがどんな形に変わっていくかという話なんですね。転がり抵抗の原因の一つは、ヒステリシスロス。材料が変形して戻るときに、一部が熱に変わってしまってロスになるんです。自転車用タイヤは様々な路面に対応しなければならないので、変形しないといけません。接地面では必ずタイヤは変形しています。その変形の度にタイヤ内部でエネルギーが熱に変わってしまう。それがヒステリシスロス。

安井:はい。

久利:もう一つが、運動の方向が変わってしまうこと。路面の凹凸に跳ね上げられて、自転車が上下動してしまうと、推進力がその上下動に変わってしまい、無駄になってしまいますね。運動の方向を変えなければ転がり抵抗は小さくなります。

安井:そうか。転がり抵抗っていうとヒステリシスロスばっかりだと思ってましたが、推進力が上下動にどれだけ変わってしまうかも大きいですね。

久利:そうなんです。転がり抵抗が小さいものの代表は電車のレールですね。鉄なので変形が少なく、ヒステリシスロスが小さい。レールは凸凹がなくて滑らかだから、上下動も小さい。

安井:なるほど。荒れた路面では空気圧を落としたほうがいいというのは、上下動を抑えて転がり抵抗を下げるためですね。

久利:そうです。空気圧を落とすとタイヤの変形が大きくなるのでヒステリシスロスは大きくなるんですが、そのぶん上下動しにくくなる。ヒステリシスロスを小さくしようと空気圧を上げると、上下動が激しくなってエネルギーロスが大きくなる。どこかにその路面に最適な「転がるポイント」があるはずなんです。人それぞれ、路面それぞれに最適なポイントは変わってきます。それを見つけるのが楽しみでもありますし難しさでもあります。

安井:ヒステリシスロスはコンパウンドで減らせるんですか?

久利:はい。ヒステリシスロスが小さいコンパウンドは、転がり抵抗は低くなりますが、一般的にはグリップが下がります。

佐藤:硬くすればいいので。変形が減って、路面に追従しにくくなる。

安井:なるほど。その両立がコンパウンド開発の難しさだと。

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