夢の続きを
2021年1月23日。女子プロロードレーサー、萩原麻由子のSNS上で突如として発表された引退の二文字。ジャパンカップで9連覇中の沖 美穂を阻んでの優勝、カタール・ドーハで開催されたアジア自転車競技選手権大会での日本人女子初優勝、ジロ・ローザでの日本人女子初のステージ優勝――。これまで数々の栄冠を手にしてきた萩原は、何を思い、引退を決意したのか。栄光と挫折。挑戦と苦悩。萩原麻由子の素顔に迫る。
2021.02.22
変わりゆくプロトン、変わらない別府史之
別府史之、38歳。職業、ロードレーサー。日本人初となるツール・ド・フランス完走者のひとりであり、高校卒業後から現在に至るまで、数えきれないほどの功績を日本ロードレース界にもたらしてきた人物だ。今回のインタビューは、フランスに拠を構えている別府が帰国するという話を聞きつけ急遽実施。インタビュアーは、別府史之を古くから知る小俣雄風太が務める。
2009年の夏のある深夜を思い出す。日本海側の片田舎で大学院生をしていた僕は、深夜の院生室で研究そっちのけで机上のラップトップPCに釘付けになっていた。そこには今まさに、ツール・ド・フランス最終ステージのパリ・シャンゼリゼで果敢に逃げる別府史之の姿があった。
その1年前、2008年のツールで僕は全ステージを取材して回ったが(正確には、綾野真・現シクロワイアード編集長の取材にくっついていっただけだが)、最終日パリにたどり着いた時に達成感を覚えてしまい、自転車レースの取材者であることにひと区切りつけたのだった。なのに、その翌年に日本人選手が2人も出場し、しかも「フミさん」がシャンゼリゼ大通りでこうして大逃げを打っている。なぜ、自分は現地でその走りを見ていないのだろう? 心の奥に悔恨を覚えた。
それから10年後の2019年、相変わらずヨーロッパプロとして活躍を続ける別府史之が、全日本選手権に出場するため帰国した。並々ならぬ気合いと決意に満ちた彼の全日本選手権に密着し、その一部始終をレポートしたのは、どこかであの2009年の悔しさを晴らしたかったかもしれない。「最後の全日本選手権」と題した記事は、多いに読まれた。
僕がロードレースを観始めた2000年代初頭に、大きな驚きをもってトップチームとの契約が報じられたフミさんは、年齢が少ししか離れていないこともあり、常に憧れと勝手な親しみをもっていた選手。彼のプロ17シーズンは、そのまま僕の欧州ロードレースを見てきた期間と重なる。21世紀以降の、変化著しいロードレースシーンを中から、通史でそれも日本語で語れる選手は彼しかいない。38歳、大ベテランの域に達したフミさんに、今まで聞きたかったことをざっくばらんに聞いてみた。妙な質問もあれこれ入れてみたが、流石のユーモアと機転を効かせた回答には舌を巻く。そしてチャーミングな物腰と受け答えは、彼と知己を得たこの15年以上なんら変わらないものだ。くだけた会話の中に別府史之の思考と性格、そして未来への提言までが顔を覗かせていると思う。
小俣:今日はちょっと趣向を変えて、自転車のことだけでなく、いろんな視点でいろんな話を聞かせていただこうかと思います。いきなりですが、子供のころは何になりたかったですか?
別府:小学生の時からは自転車選手。変わってないね。
小俣:大人になったらXXXになりたいという最初の夢は?
別府:うーん、逆に自転車選手にならないんだったら、これをやりたいというのはあったね。お寿司屋さんになりたかったし、陸上の選手、水泳、バスケットもやりたかった。犠牲というと言葉は違うかもしれないけど、自転車をやるためにこういったことを制限してきたというのはあるね。
小俣:お寿司屋さんというのは、初めて聞きました。
別府:高校3年生の頃にお寿司屋さんでバイトしてて、それが楽しかったんだ(笑)。人生最初で最後のアルバイトだね。回転寿司だったけど、地元で獲れた新鮮なネタで、自分で握ったりもしていた。バックヤードからこっそり客席をのぞいて、『おっ、食べてる食べてる。それネタ大きいやつですよ』みたいな(笑)。体がふたつあったら寿司職人になりたかったなぁ。でもそのスキルがあるから、いまもヨーロッパで『自分、寿司握れますから』って豪語してる。
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2021年1月23日。女子プロロードレーサー、萩原麻由子のSNS上で突如として発表された引退の二文字。ジャパンカップで9連覇中の沖 美穂を阻んでの優勝、カタール・ドーハで開催されたアジア自転車競技選手権大会での日本人女子初優勝、ジロ・ローザでの日本人女子初のステージ優勝――。これまで数々の栄冠を手にしてきた萩原は、何を思い、引退を決意したのか。栄光と挫折。挑戦と苦悩。萩原麻由子の素顔に迫る。
2021.02.22
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