衝撃体験とルックのエアロロード史

その頃所属していたメディアの編集部は溜池山王にあった。雑務を終えて家に向かって走り出したのは夜の8時くらいだったと思う。跨ったのは、その日編集部に届いたばかりの試乗車、ルック・585オプティマム。今から15年ほど前のことだ。

六本木への坂を上り、麻布十番を過ぎ、白金高輪を抜け、東京南部のアパートに向けて走る。五反田に差し掛かる頃にはもう、頭が真っ白になっていた。
ぎちぎちに締め上げられた585の四肢は、ペダリングに過敏なほどに反応した。大人しく帰宅するには、その走りはあまりに刺激的だった。思わず家を素通りして、海へ向かって走り続けた。翌日も出勤しなければならないのに、結局一晩中、585と濃厚な時間を過ごした。空が白み始めた頃に家にたどり着いてからも、しばらく585を眺めてボーッとしていた。

当時試乗した585オプティマム。カーボンチューブをカーボンラグで繋いだ軽量高剛性フレームだった。(画像提供/ユーロスポーツインテグレーション)

とまあそんな衝撃体験があったから、当然のように筆者はルックの虜になり、件の585はもちろん、595、695、785と立て続けにルックのフラッグシップを手に入れることになる。歴史を遡って481も複数台所有した。どこまでもしなやかな481から、それとは対極的な585を経て、滑らかで柔らかでしかし力強くもある595に至るという一連の変化を脚で感じ、ルックというメーカーの変幻自在な奥深さにぞっこんになった。

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