前口上

タイヤの構造を知ることが、素材や作り方を知ることが、一体なんの役に立つ。
そういう意見もあるだろう。

それよりどのタイヤが軽いのか、それよりどのタイヤが転がり抵抗が小さいのか、パンクしないのか、グリップがいいのか、それを教えてくれ。

その気持ちも理解できる。
そのほうが分かりやすいし、実利に繋がる。
だから不特定多数の読者に向けた記事では、「分かりやすさ」は決して疎かにできない。

しかしここはLa route、精鋭の読者の皆さまが集う場所である。
ならばときには、ある一つの要素に特化して、少しだけ踏み込んでみよう。
内容はやや難解になるかもしれないが、もの作りの現場に足を踏み入れることにしよう。

ほら、新鮮なゴムの匂いがしてきた。
アジリストの生産でフル稼働しているパナレーサー本社工場へ、ようこそ。
奥深きタイヤの世界へ、ようこそ。

なぜタイヤはここまで太くなったのか

京都と兵庫にまたがる丹波の地に建つパナレーサー本社工場では、100人ほどが働いている。一部の特殊なサイズの製品を除き、主力商品のほとんどはここで作られており、開発棟も同じ敷地内にある。

今回のタイヤ取材行、まずは技術者に方々に「タイヤのイロハ」を聞くことにする。工場を見せていただくにしても、開発ストーリーをお聞きするにしても、タイヤの基本が分かっていないと、面白さは半減する。

敷地内の一角にある事務棟の応接室に、技術部の久利隆治さんと佐藤優人さん、マーケティンググループの高橋 諭さんと三上勇輝さんが集まってくれていた。言うなれば“チーム・アジリスト”の4人だ。

安井:今回はアジリストの発表直後でお忙しい中、お時間をとっていただきありがとうございます。二日間に渡る取材となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

一同:こちらこそ。

技術部技術開発グループ・久利隆治さん。95年に入社し、タイヤやチューブの設計・開発を行う。自転車歴は33年で、現在はスペシャライズド・ターマックとパナソニックのスチールバイクで通勤とロングライドを楽しむ。
佐藤優人さんは2020年入社の29歳と若手だが自転車歴は12年。技術部技術開発グループでタイヤ製造の要となる金型の設計を行う。“走れるエンジニア”として三上さんと共に新製品のテストも担当。
2010年入社の高橋 諭さん。マーケティンググループに所属し、営業・マーケティング・商品企画を担当する。愛車はキャノンデール・スーパーシックスエボ。
各種マーケティング、イベントの企画、新製品のテストなども担当するマーケティンググループ・三上勇輝さん。自転車歴12年で、現在の所有バイクはスコット・アディクトRC、リドレー・カンゾーファスト、タイム・スカイロン、コガのTTバイクなど多数。

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