出走前日

ありとあらゆることを準備し、WINDY寅さんからお借りしたオーストリッチOS500にルーベを詰め込み、出走前日、常磐線特急に乗り込んだ。そのまま品川まで行き、京浜急行で羽田に向かう。

慣れない都会。重い自転車と荷物が緊張に輪を掛ける。品川の改札で切符を取り忘れて、羽田の改札で駅員さんに軽く迷惑を掛ける。そのままオーストリッチを担ぎ羽田空港3階出発ロビーまで移動。手荷物カウンターに急いで向かう。

妻のユカさんが駅まで送ってくれて、オニギリも作ってくれた。ありがたや。

実は飛行機輪行は初めて。「中には何が入ってますか?」と、サドルバッグからフレームバック、ルーベ特有のストレージボックスの中までチェックされた。事故や事件防止とは分かってはいたが、正直パッキングした努力が無になり大変であった。
意外にも、20,000mAのサブバッテリー、VOLT1700と1600、充電器2個にUSBコード7本、Di2充電器、パワーメーター充電器、CO2ボンベ3本などなど多数をバッグに入れていたが、2度程見せた程度であっさりと通過できてしまった。

検査通過正面の搭乗口であったにもかかわらず、正反対の隅まで歩き引き返してくるという、ド天然ぶりを発揮。適応能力の低さが自らの頭を悩ませた。お陰で搭乗まで休めなかった。
機内に入ってやっとひと息を入れる。CAさんから配られたコーヒーが格別に美味しい。前日は5時間ほどしか寝ていなかったため眠くなってきた。コーヒーを飲み終えるといつの間にか眠りについた。

携帯のタイマーが鳴る。そろそろ着陸だ。
睡眠の余韻が残るが、鹿児島に到着してからのスケジュールを思い出し、気を引き締めた。到着ロビーで自転車を受け取る。

LINEが入った。5年前のリベンジとしてこの日本縦断ブルべに参加する同チームの川崎さん(ビチアモーレ南麻布店店長の川崎隼輔さん。シクロクロスでも活躍する現役の実業団レーサー兼メカニックで、2次元の世界にも造詣が深い。昨年、「実はライドアクロスジャパンに出て、荷物飛ばしに失敗して函館でリタイアしたんだよ」と発言し、激坂さんの心に火をつけた人でもある。※編集部注)である。OS500を抱えて空港出口まで行くと、すでに川崎さんは組み立てをほぼ終えていた。

挨拶を交わし、会話をしながら組み立てとバッグの設置などを行い、空港内にあるヤマト運輸でOS500を北海道・稚内の宿泊地まで発送する。「自転車でどこまで行くんですか?」と聞かれたので、発送先の稚内ですと答えると「ええ! 自転車で行けるの?」と言われる。ええ行きますと応えたが、一瞬、本当に行けるのか? と不安になった。

鹿児島空港で自転車を組み立て。いよいよ明日から長い挑戦が始まる。

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