先入観と誤解

大混雑のぎゅうぎゅうの電車を想像していたのだが、意外と車内は空いており、難なく座れるほどだった。ゆりかもめに乗って台風8号と共に降り立ったのは東京ビッグサイト。

La routeでも度々執筆をお願いしているbaruさんにお誘いを受け、コミケ(コミックマーケット、世界最大の同人誌即売会)へ、スタッフ高山と一緒に初参加することになったのだ。行ってから知ったのだが、今回は記念すべき100回目だったそう。

コミケとか同人誌1世間的には「アニメ、漫画、ゲームなどを題材にしたファンアート」、いわゆる二次創作というイメージが強いが、本来は「同好の士が執筆・編集して作成する刊行物」全般を意味するものであり、ジャンルは問わない。明治時代、文豪たちが集って発行した文芸誌が同人誌の先駆けとされる。と聞くと、門外漢にとっては二次元の美少女や大人な二次創作物や過激なコスプレをイメージしてしまうが(それらも立派な日本の文化)、それだけではないことも今回初めて知った。それが“評論”と呼ばれるジャンルだ。

評論のテーマは歴史、軍事、政治、食べ物、お酒、動物、旅行、文学、音楽、スポーツ、デザイン、美術・芸術、建物、住宅、法律、医療、金融、船舶、鉄道、クルマ、オートバイ、航空機、写真、植物、科学、工学、宇宙……と、まさに多種多様千差万別種々雑多。
あまりにディープすぎて一般メディアで取り扱うのは難しい濃厚で個性的な情報が、ここに集結している。まぁ玉石混交だったりもするのだが、フォーカスエリアが狭いだけに専門誌より深く掘り下げられているものもある。

数多あるジャンルの中に、もちろん“自転車”も存在する。自転車をテーマに出展しているサークルは40ほど。今回の目的はそれら自転車系サークルだ。いざ突撃。

今回、コミケはチケット制になったので、過去に報道されていたような大混雑はなく、すんなりと入場できた。我々は事前に取材申請をしていたので、プレス受付で腕章とパスをゲット。意気揚々と会場に乗り込んだところ、「美麗で妖艶な大人の絵図」の洪水に圧倒され呆然と立ち尽くす安井。ちょっと違うな。我々の目的地はここじゃない。目の前を横切る肌も露わなコスプレお姉さんを横目で(しっかりと)眺めつつ、評論のジャンルが集まる東ホールへ。

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