輪行で一人、鬼怒川温泉へ

重いスチールフレームのシクロクロス車を抱えての輪行だから、ヤフーの乗換案内が教えてくれるほどスムーズにはいかないかもしれない。
しかも、明日は鬼怒川温泉駅に朝9時に集合なので、当日出発だと通勤ラッシュと重なって輪行は迷惑になるだろう。だから前泊することにした。

どうせだったら鬼怒川温泉の夜をぶらりとしたくて、15時くらいに家を出る。自宅から栃木県日光市にある鬼怒川温泉まで、電車で3時間とちょっと。18時頃に着けば、少しは散走できるだろう。

しかし鬼が怒るで「きぬ」と読ませるとは、ものすごい字面である。かつては絹川や衣川と書いたそうだが、普段は静かに流れる川が洪水になると一転、激しい流れと岩が転がってぶつかる音などから、「鬼が怒っているよう」とされ、いつしかこの漢字が当てられるようになったという。自然の厳しさと、人間の強さを思わせるエピソードである。

北千住まで行って、ちょっとレトロな東武の特急スペーシアに乗り、車内の通路にバイクを置く。缶コーヒーを買って、一人で大きい窓側の席に座る。平滑度のあまり高くないガラスを通して見るちょっと歪んだ景色が、どんどん田舎になっていく。揺れる度に年季の入った車体がミシミシきしむが、それもまた風情。

なんだか特別な気分だ。家から離れるにつれて淋しくなっていくような、山に近づくにつれてわくわくが沸き上がってくるような。

夕刻の、人もまばらな鬼怒川温泉駅に着いた。輪行を解除し、駅近くの、前日に予約したからかそれなりの構えでツインベッドの広い部屋にもかかわらず5,400円と格安だったホテルにチェックインしたあと、バイクで鬼怒川温泉をぶらぶらした。

こういうとき、グラベルロードのような“ちょうどいいスポーツバイク”は、本当にちょうどいい。
ロードバイクならつるりと通り過ぎてしまうほどの小さな温泉郷だが、グラベルならそこまでスピードが出ない。かといってアップダウンが激しい温泉郷を行ったり来たりするのが嫌にならないくらいには走りが軽い。

川面にせり出して今にも鬼怒川に崩落していきそうな廃墟群と、資本が入って新しく煌びやかなリゾートホテルや高級旅館のコントラスト、その背後に聳える山々の稜線。明日のグラベルツアーが楽しみだ。

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