La route自転車研究所 其の四│自転車用タイヤの作り方
自転車にまつわる様々な物事を深掘りする連載「La route自転車研究所」。タイヤをテーマにした第四回のラストは、最新の自転車用タイヤの製造工程レポート。「タイヤのイロハ」で説明したケーシング、トレッド、ビード、ブレーカーはどのように輪っかになり、どのように一体化されるのか。それを知るために、アジリストとグラベルキングの生産でフル稼働中のパナレーサー本社工場へ足を踏み入れた。
2022.06.27
VITTORIA CORSA PRO試乗記・技術者インタビュー
「変化」と「不変」の併存
ヴィットリア・コルサ。多くのメーカーが採用するナイロンケーシングではなく、しなやかで快適性に優れるコットンケーシングを使う高級タイヤの代名詞である。トッププロにも愛されてきた歴史あるコルサが今年、史上最大のモデルチェンジを受けた。コットンケーシングながら加硫製法を採用し、タイヤの構造を大きく変化させたのである。20年以上も前からコルサを使い続けている安井行生が、イタリア本社の技術者へのインタビューを交えつつ、新型コルサ プロへ評価を下す。
金属フレームもラグドカーボンフレームも、リムブレーキもナローリムも、23Cもチューブラーも、機械式変速機もケーブル外装も、競技の世界を頂点とするロードバイクのメインストリームからは絶滅しつつある。
しかし今でも残っている古の技術がある。ヴィットリアのコルサシリーズを始めとするコットンケーシングである。ユンボもEFもアルペシンもロットもアスタナもDSMもレースで使って大活躍中だ。
しかしコットンケーシングは特殊な製法を必要とするため、採用するメーカーは限られている。一般的なタイヤは、ゴムを乗せたナイロンケーシングにブレーカーとトレッドを貼り、最後に金型の中で熱と圧力を加えて化学反応を起こし、ゴムの分子構造を鎖状から網目状に変化させつつ成形する。この加硫工程を経ることで各素材が一体化し、ゴムに弾力が生まれ、我々が知っているあのタイヤになるのだ。このときタイヤは丸く立体的になり、リムにはめてエアを充填したときの形状になる。
一方、ここでも軽く触れているが、コットンはナイロンに比べて耐熱性が低いため、コットンケーシングは金型内で加熱ができない。だからケーシングに加硫済のトレッドを接着剤で貼り付けて完成とする。当然、立体的にはならずタイヤは真っ平のままだ。リムに嵌めてエアを入れると丸くはなるが、元々平らなものを無理矢理丸くしているので素材にストレスがかかる。さらに、経年によって糊で貼っているだけのトレッドが剥がれてくるという悪癖も持つ。
形状精度にも課題が残る。パナレーサーで長年タイヤの開発を行われている久利隆治さんはこう仰っていた。
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自転車にまつわる様々な物事を深掘りする連載「La route自転車研究所」。タイヤをテーマにした第四回のラストは、最新の自転車用タイヤの製造工程レポート。「タイヤのイロハ」で説明したケーシング、トレッド、ビード、ブレーカーはどのように輪っかになり、どのように一体化されるのか。それを知るために、アジリストとグラベルキングの生産でフル稼働中のパナレーサー本社工場へ足を踏み入れた。
2022.06.27
ここまで話題になったタイヤは近年珍しいかもしれない。パナレーサーの新作、アジリスト。これまでパナレーサーのレースシリーズは、強烈なグリップや独自の味付けがレーサー達に支持されていたものの、その方向性は世界の潮流とやや乖離するものだった。トレンドをがっちり掴んだグラベルキングとは、あまりに対照的。このままではロードタイヤカテゴリで孤立してしまうのでは……。そんな心配すらしていたときにデビューしたアジリストは、どんなタイヤに仕上がっているのか。全ラインナップを一気乗りした安井のレビュー。
2022.04.11
コンポーネントやハンドルやシートポストなどのパーツをフレームに固定しているのは、全て小さなボルトである。自転車はボルトによって組み立てられているのだ。しかしある日、はたと気付く。自転車に欠かせないボルトについて、僕らはなにも知らない。素材は? 強度は? 締め付けトルクは? 作り方は? チタンボルトに交換する意味は? 自転車用チタンボルトでも有名な興津螺旋でその全てを聞いてきた。自転車を自転車たらしめる縁の下の力持ち、ボルトに焦点を当てる。
2020.12.07
アジリスト全モデルに試乗し、パナレーサー本社でタイヤについて勉強し、工場で製造工程を見たあと、さらにアジリストの開発ストーリーをお聞きしようと思ったのは、タイヤに関する見識に奥行きを与えるためだ。従来のレースシリーズから大きく変化したアジリスト。コンセプトの変更、目標性能の設定、構造の見直し、試験、味付け、煮詰め作業は、どのように行われたのか。アジリストの開発を主導した4人のキーマンに、タイヤ開発の長い道のりを聞く。
2022.07.11
La routeの制作メンバーが気になるor自腹で買ったアイテムをプチレビューする「LR Pick up」。第17回は、世界三大タイヤメーカーとして知られるアメリカのグッドイヤーが発表した新作「イーグルF1 R」と、その軽量版である「イーグルF1スーパースポーツR」。これまでOEM生産が主だったグッドイヤー自転車部門だが、開発製造元であるラバーキネティックスが自社工場を設立して作り上げたという、渾身のニュータイヤ。その実力はいかなるものか。編集長の安井が25Cのチューブレスモデルを試す。
2023.06.19
La routeの制作メンバーが気になるor自腹で買ったアイテムをプチレビューする「LR Pick up」。第16回は、コットンケーシングの手作りタイヤで有名なイタリアのチャレンジから発売されたクリンチャータイヤ「サンレモ」。タイヤにまで高価格化の波が押し寄せている今、3,630円のサンレモの実力は如何なるものか。今まで低価格帯のタイヤとは距離を置いてきたという編集長の安井が試す。
2023.04.12
ディスクロードにしてフレーム重量600gを下回るという、にわかには信じがたい軽さを誇るエートス。そしてグラベルロードながら軽量ロードバイクフレーム並みの重量を実現したクラックス。それらを開発したのは、スコットのアディクトやキャノンデールのスーパーシックエボなど数々の名車を手掛けてきた、自転車界の鬼才と呼ばれるエンジニア、ピーター・デンク。La routeは、エートスが発表された1年以上も前から「デンクに話を聞きたい」と言い続け、ついに氏へのインタビューが実現した。エートスはなぜここまで軽くなったのか。なぜ従来のセオリーとは異なる形状になったのか。デンク氏から得られた回答のほぼ全てを、ここにお伝えする。
2022.02.21
やっと出てきた。アンカー初のエアロロード、そしてアンカー初のハイエンドディスクロードでもあるRP9。さらに、デュラエース完成車約120万円、フレーム価格約50万円という高価格帯への参入。アンカーにとって初めて尽くしの意欲作でもある。ライバルメーカーに対する遅れを取り戻せるか。競合ひしめくハイエンド市場で存在感を示せるか。オリンピックの興奮冷めやらぬ2021年9月の東京で、安井がRP9に乗り、真面目に考えた。
2021.09.27
コロナの影響でなかなか実現しなかったアンカー・RP9開発者インタビューが、やっと叶った。日本のメーカーだから、近くて簡単に取材できるから、なんていう消極的な理由ではない。RP9を見て、乗って、考えた結果、これはなにがなんでも開発者に話を聞かねば、と強く思ったのだ。あの走りは意図されたものなのか。もしそうなら、どうやって実現したのか。ブリヂストンサイクル上尾工場内のカーボンラボにて、RP9の秘密に触れた。
2021.11.22
普段生活していて、この会社の自転車を見ない日はないといっていい。ホダカ株式会社。「マルキン」ブランドの軽快車をはじめ、「コーダーブルーム」や「ネスト」といったスポーツバイクブランドを擁しているドメスティックブランドで、海外メーカーが隆盛なスポーツバイク業界では貴重な存在である。しかし私たち含めスポーツ自転車愛好家の多くは、その実態をほとんど知らない。今回はそんなホダカが一体どんな会社なのかを探るべく、インタビューを敢行。La routeチームは高揚感と緊張を胸に、越谷市にあるホダカ本社に向かい、代表取締役の堀田宗男さんと企画開発部部長の雀部庄司さんのお二人にお話を伺った。
2023.05.22
エアロロードが必修科目になり、ディスクロード一色になった現在のロードバイク界。しかしアンカーはエアロロードを持っていない。ディスクロードも1車種しかラインナップしていない。おい大丈夫なのかアンカー。推進力最大化とか言ってる場合か。そう思っていた人も多いだろうが、ここでやっとRL8のディスクブレーキ版RL8Dが追加された。開発陣へのインタビューを交えながら、RL8Dという自転車の価値と、アンカーというメーカーのこれからを考えた。
2021.04.19
コロナの影響でなかなか実現しなかったアンカー・RP9開発者インタビューが、やっと叶った。日本のメーカーだから、近くて簡単に取材できるから、なんていう消極的な理由ではない。RP9を見て、乗って、考えた結果、これはなにがなんでも開発者に話を聞かねば、と強く思ったのだ。あの走りは意図されたものなのか。もしそうなら、どうやって実現したのか。ブリヂストンサイクル上尾工場内のカーボンラボにて、RP9の秘密に触れた。
2021.11.22
Twitterでトレンド入りするほど話題となったキャットアイの新型ライト、VOLT800 NEO。名作と言われた前作VOLT800の価格はそのままに、「日本のユーザーが求めている性能」をきっちりと織り込んで進化させた“NEO”は、いかにして企画され、開発されたのか。キャットアイへのインタビューを通して、VOLT800 NEO開発の背景を紐解く。書き手は自転車用ライトに関して膨大な知見を有する「東京⇔大阪キャノンボール研究」の管理人、baru(ばる)さんだ。前編ではキャットアイの技術者に「自転車用ライトの基本」を聞く。
2023.04.03
キャノンデールのエンデュランスロード「シナプス」がモデルチェンジを遂げて5代目となった。その姿を見た安井の第一声は「これは果たしてシナプスなのか?」であった。平凡になったフレームワーク、ハイモッドバージョンの消滅、バイクパッキングに対応した台座の数々、そして安全装備「スマートセンス」を一番の売りとしてアピール―—。かつてはツール・ド・フランスにも投入されたこともあるあの「シナプス」は一体どこへいってしまったのだろうか。編集長の安井行生が、キャノンデール・ジャパンへのインタビューも踏まえ新型シナプスの本質に迫る。
2022.03.14
S5を発表したばかりのサーヴェロが、返す刀で伝統のネーミングを復活させた。かつて強豪選手が乗りレース界で暴れまくった名車であり、現代のエアロロードの始祖とも言えるソロイストである。ただし、当時のソロイストの精神をより濃く受け継ぐのはS5だ。空力を追求し、グランツールで華々しい勝利を挙げるS5こそ、ソロイストの皇位継承者に相応しい。では、新型ソロイストとは一体なんなのか。名ばかりの復活なのか、それとも――。安井行生がS5、R5、カレドニアと比較試乗し、新型ソロイストの存在意義を考える。
2022.12.26
名門コルナゴのエースを張るVシリーズがV4Rsに代替わりしたばかりだが、前作V3-RSと同形となるミドルグレード、V3は2022年にケーブル内装化というマイナーチェンジを受け、まだまだ現役である。安井行生と栗山晃靖が機材や自転車界隈のあれこれについて語り合う「La route Talk」の第3回は、そんなV3を題材に、ロードバイクの高価格化と、現代のミドルグレードの課題について語る。ミドルグレードは果たして、これでいいのか、これがいいのか。
2023.03.27
量産ディスクロードながらフレーム重量500g台、完成車重量5kg台という軽さを実現し、大きな話題を呼んだスペシャライズド・エートス。La routeでも3回に渡ってエートスの記事を公開した。しかしLa routeはハイエンドバイク専門メディアではない。近年稀に見るエポックメーカー、エートスならミドルグレードの試乗もすべきだろう。エートスの購入を本気で検討しているLa routeのテクニカルディレクター、藤田宗親を加え、リアルな買い手目線のエートスグレード間比較試乗記をお届けする。
2021.07.19
スペシャライズドのグラベルロード、ディヴァージュに“STR”のサフィックスを付けたニューモデルが追加された。トップチューブ後端から何かが伸びて、シートチューブに繋がっている。またスペシャがなにか新しいことを考え付いたらしい。STR =Suspend the Rider。「ライダーを振動から切り離す」だけなら、古の技術であるフルサスでいいはずだ。スペシャライズドはなぜ、ステム直下とシートポストに衝撃吸収機構を仕込んだのか。新作ディヴァージュSTRをネタに、安井行生が「自転車の速さと快適性」、そして「グラベルロードの在り方」を考える。
2023.05.01
La routeの安井行生と栗山晃靖が機材や自転車界隈のあれこれについて語り合う「La route Talk」。第1回目は新型のトレック・ドマーネを取り上げる。ピュアロード、エアロロード、エンデュランスロード、グラベルロード、オールロード。ロードバイクのカテゴリーが多様化し続ける一方で、それぞれの棲み分けはどんどん曖昧模糊になっている。その中でもとりわけ存在感が薄くなりつつあるのが、グラベルロード人気の煽りを食っている様相のエンデュランスロードだ。今回、第4世代となった新型ドマーネで安井と栗山が約70kmのライドを敢行し、その印象とエンデュランスロードの存在意義をあらためて語ることにした。街中、グラベル、峠を走った先に見えた、エンデュランスロードの行く末とは。
2022.12.19
2022年の末、日本のスポーツ用品メーカーであるヨネックスが、新型のカーボンフレーム「カーボネックスSLD」を発表した。コンセプトは次世代の軽量ディスクロード。540gというフレーム重量にも度肝を抜かれたが、走りも驚くべきものだった。箱根の登坂をXSサイズのカーボネックスSLDと共にした安井は、「完成の域に達したリムブレーキ車に近い性能と乗り味」と評した。なぜカーボネックスSLDはここまで軽くなり、こんな走りをするのか。ヨネックスの新潟工場に赴き、カーボネックスSLDが生まれた背景に迫る。前編では、技術開発第一部の古山少太さん、川上清高さん、綾野陽仁さんの3名に開発秘話を聞いた。
2023.06.12